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第三幕 十三、おんもらきの巣②
「遠慮すんな、もっといっぱい飲めるようにしてやるよ」
丸めた腹に蹴りが飛んでくる。後ろ手に拘束された状態では守るすべがなくて、庄助の胃袋はまたしても派手にダメージを食らう。
「はびゃ……っ」
しこたま水を飲んだ内臓への圧力で、まるでポンプみたいに勢いよく吹き出す。内臓へ尋常ではない疼痛が追いかけてきて、庄助は自分の吐いた水溜まりの中でのたうち回った。飯を食っていなかったのは、不幸中の幸いだったかもしれない。
「あの時素直についてくれば、こんなことにならなかったのになァ」
青メッシュとあと一人、屈強な身体つきの坊主頭の男が、這いつくばる庄助を見下ろして嗤う。車でしばらく走って連れてこられたのは、郊外にある廃業したラブホテルだった。バイパス沿いでそこそこ車通りはあるが、わざわざ入ってくる人間はいない。
庄助は今、そこの一室のバスルームで暴行を受けている。
悪い人間の溜まり場になっているのか、建物全体がひどい有様だ。落描きはそこらにされているし、部屋の調光パネルや間接照明は割れて飛び散っている。床はめくれ、ところどころコンクリが剥き出しになっている。どういうわけか、水や電気は引かれているようであった。
荒い息をつきながら、既視感すら覚えるシチュエーションに吐き気がした。前も半グレ連中に、廃ビルで散々に殴られて犯されかけた。あの時は景虎が助けに来てくれたけれど、こんな都市部から離れた場所でスマホを取り上げられてはどうしようもない。
「水責めばっかりで悪いな。ほんとは俺とお揃いの顔面にしてやりたかったけど……。お兄さんのことは、できるだけキレイな状態で連れて来いって言われてるから」
「……はあ、は……っゥぐ、だれが……なんで俺……なん……」
「さあね? 俺たちは雇い主に言われたことをやってるだけだからね」
今度は濡れた頭を靴で踏みつけられて、庄助は呻いた。
「ゥ、んぎ……っ! ああ……っ」
「こうやってお兄さんをいじめてんのは、ただの趣味を兼ねた復讐。よくも鼻折ってくれたな、クソ痛えんだよガキ」
耳を、頬を踏まれゆっくりと体重をかけられると、靴底の凹凸の食い込んだ皮膚が攀じれる痛みに喉奥から悲鳴が飛び出た。
ひとしきり踏み終わると、濡れそぼったシャツの襟を掴まれ、上半身を坊主頭に抱え上げられる。また目の前に暗い水面が迫った。せっかく息ができるようになったのに、と庄助は絶望した。もうあの苦しいのは死んでもごめんだった。
「や……もう水、は……っぷ、ぐ……!」
ぽこぽこと泡を吐く。息継ぎをさせられて、また沈む。繰り返される終わりのない恐怖に、頭の芯が焼き切れそうだ。酸欠で朦朧とすることすら許されず、すぐそばにある死のことしか考えられない。
何分かそうして虐待を受けたあと、またしても庄助の身体は地面に投げ出された。
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