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第三幕 十四、艱難、汝を✕✕にす②
「なあ、やっぱ俺に発信機みたいのつけてる?」
景虎は後部座席にワウちゃんの頭を雑に投げ込んで、庄助の疑問を鼻で笑い飛ばした。
「言っただろ。お前の場所がわかるのは、愛の力だ」
「納得いかんて……」
唇を突き出す庄助を促し、助手席に乗せた。景虎が運転席にその大きな身体を入れ込むと、車全体が傾ぐように揺れる。
「あ、お前よう考えたら怪我してるやん。俺、運転するから、はよこれ外してくれって。作業車の中にハサミとかあるやろ」
手首を締め付けるプラスチックのバンドが擦れて痛い。後ろに縛られて動かせない腕が、重くて怠かった。庄助はシートの上で身体を捻って催促した。
「大丈夫だ。おかげさまで庄助には、たくさん寝かせてもらったからな。運転くらい任せろ」
「お……おう、いや。それは関係なしにやな」
白いファーでできた着ぐるみの手が、庄助の頬に触れた。毛がところどころ血で固まっている。
「……また、捕まって死にかけたな? 俺に黙って」
景虎は口元だけで笑っている。怒りが隠しきれない瞳は、例えるならばそう、夏の夕暮れの空の裾のような昏く燃える色をしている。
やっぱりこうなるやん。予想していたこととはいえ、いざ怒られるとなるとビビってしまう。耳を伏せて尻尾を足の間に入れる犬のような珍妙な顔をしながらも、庄助は自己アピールを忘れなかった。
「でも、ちょっとだけ強くなった気ィせん……? あの青い奴、俺がぶっ倒したんやで……?」
まずそこを褒めてほしいとばかりに、上目遣いで景虎の顔を伺う。彫像のような無表情が、やはり目だけで怒って庄助を見ていた。
「……ごめん、心配かけて。ほんでまた、助けられてもーた」
目を伏せた庄助の額に、景虎がそっと口づけた。
「庄助は本当に、ヤクザになりたいんだな」
「え……」
意外なほど優しい声音に、目を丸くする。
「俺に何かを隠してでも、やり遂げたいことがあるんだろう? それを尊重してやりたいとは思ってる」
「ほ、ほんまに?」
「でもな……何度も言うが、ヤクザは汚くて危険な仕事だ。お前には“織原の虎”の相棒を最後までつとめる覚悟はあるか?」
ドキンと庄助の心臓が跳ねた。今までもらったどんな甘い愛の囁きよりも、ずっとずっと欲しかった言葉のような気がした。
心を溶かすような『大好き』や『愛してる』も嫌な気はしない、嬉しい。でも、庄助はずっと景虎の隣を歩きたいと思っていたのだ。庇護の対象などではなく、対等な相棒として見てもらえることが何よりも嬉しかった。
「ある!」
庄助がめいっぱい叫んだので、景虎は苦笑した。
「そうか、わかった。でもな、口でなら何とでも言える……俺が見たいのは、庄助の本気だ」
「本気て、どうやったらいい?」
「家に帰ったら、俺がテストしてやるよ。お前が、ヤクザに相応しいかどうか」
そのまま庄助を座席に縛り付けるように、シートベルトを装着した。
エンジンがかかって、尻の下が唸る。エアコンの生ぬるい風が、庄助の生乾きの金髪を揺らした。夏の夜空は向こうの方まで、ずっとずっと暗かった。
「庄助が朝まで音を上げなければ、認めてやる」
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