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第三幕 十四、艱難、汝を✕✕にす⑪*
肩の刺青の虎に頬を擦り付けて、庄助はふとテーブルのほうを見た。帰ってきてそのまま置いたスマホや家の鍵、それに出ていったときと同じく、藥袋や庄助の残したメモが雑に乗っている。二人でアルバムを見た数時間前が、随分昔のことのように思えた。
矢野の話を思い出す。もしかしたら景虎には、子供の頃のアルバムがないのかもしれない。それは不幸なことだろうか? わからない。でももし景虎がこれから何かの折に写真を撮ってほしいと願うなら、その隣に居るのは自分がいいと、庄助は思った。
「カゲ……かげとら」
こんなに夢中にさせないでほしかったのに。けれど、作り変えられていく自分の心と身体が愛おしくもあった。
夏の朝ははやく、窓に切り取られた四角い空は白み始めている。壁の時計を見ると、朝の五時前を指していた。朝まで音を上げずに耐えれば相棒として認めてやるなんて、景虎はそう言っていたけれど、認めてくれたとしてきっと、これからも何かにつけてうるさく言ってくるに違いない。
……ずっとそれでいいけどなあ、もう。
俺が一人で暴走して、そのたびにこうやってお仕置き、つって猿みたいにヤって。
別にそれでいいから、カゲと一緒にいたい。
「ん、んんっ……ぁふ」
そんな甘い考えが浮かんでは、溶けて流れて消える。キスされながらぐちゃぐちゃに突かれるのも気持ちいい。舌を絡めて上も下も濡れて繋がって、頭が芯から馬鹿になる。
「ん、はあっ、庄助が好きだ……」
蕩けた肉壁に精液を塗りつけられながら切羽詰まったように囁かれると、いっそう腰の奥が重くじんじんと痺れた。射精してもまたすぐに復活して、何回も繰り返す。
そんな景虎のセックスにも慣れてしまった事実が、前ほどイヤなことではなくなっていた。
だからふと、思い立って口をつきそうになる。今ならもしかしたら、伝えても変じゃないだろうか? 今なら、いつかの景虎の“好き”に返事ができるのではないだろうか。
それは、今日なのかもしれない。
庄助は景虎の刀疵のある頬をそっと手で挟んで、まっすぐ見つめた。
「カゲ……あのな、俺……俺な」
その時机の上で、庄助のスマホのバイブが唸りを上げた。人生において、信じられない、まさかこのタイミングでそうなる? という瞬間があるとすれば今だった。
嘘やろ。こんな朝早くに誰や。国枝さんか、オカンか。
無粋な着信に、急激に逃げてゆこうとするロマンチックの尻尾を捕まえようと、無視して景虎にキスをねだろうと目を閉じた時。
景虎は、長い腕を伸ばして庄助のスマホを掴んだ。そうして、画面に表示された名前を冷たい目でじっと見てから、おもむろに指でスライドした。
何が何だか分からないうちに枕元にボフッとスマホを投げてこられて、庄助は目を丸くした。
「え……っ!?」
脚を肩の上に担がれ、深く繋がったまま両手を恋人繋ぎでマットに縫い止められる。景虎のキレイな顔面に、上から顔を見下ろされる体勢は庄助がひっそり好きなものだが、今はそんなことはどうでもよい。
《庄助? 聞こえる? 朝早くごめん》
「に……っにいちゃ……」
スピーカーから、静流の声が聞こえた。背中に一気に嫌な汗が湧いて、庄助はフリーズした。
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