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第三幕 十五、凶猿(ましら)の告解②

 まだ儂も組長なんてやってなかったときで、相棒のミズタニって男と二人、タッグ組んでデカいシノギをあげようとしてたとこだったンだ。ミズタニは、先代の織原の組長の元で同門だった……もう、ウチにはいないがな。  そんな中、あいつはハナちゃんに近づいた。シングルマザーで金もない彼女と付き合って、少しばかり資金援助をしてやるんだと言ってたな。  別に、儂らヤクザものにとっちゃあ珍しい話じゃない。真っ当な……というのもアレだが、儂らは昼間真面目に働いてるような普通の女と(ねんご)ろには、そうなれんからな。  儂もそれを聞いたときは、すっかり騙されちまった。たまに行く飲み屋でミズタニと話すハナちゃんは、すごく嬉しそうだったからな。  ミズタニなんかに心を許しちまったのが、あの子の運の尽きかもな。まったく、地獄坂を転がり落ちるのは一瞬だァなァ……。  今の織原は薬物の売買は法度だが、当時の儂らはシノギに、シャブやらコークやら、バカみてェに売りまくっててよ。とにかく今も昔も、薬物は利益率が高ェんだわ。  で、まあ……想像つくよな。ミズタニはハナちゃんにそれを売ってやってたんだ。しかも、よりにもよってシャブだぜ。  仔猿ちゃんはクスリ食ったことねえか? だったらいい、今後も絶対に食うな、知らなくていい。絶対にだ。特にシャブだけは絶対にダメだ。  意志が強いだとか一度だけならとか、そんなことは関係ねェのさ。アレは人間に脳みそがついてる限り、逆らえない類のもんだからな。書き換わっちまうのさ、何をおいても覚せい剤の快楽を優先しろって、脳が命令を下すのさ。  ハナちゃんはたまたま、大学の時に一度別のクスリに手を出してやめられていた。それが余計にダメだったんだ。ヤバくなったらまたやめられるだろう、そう思ったんだろうな。それで、後は……。  ここまで言や、さすがにアンタにもわかるたァ思うが、ヤクってのは買うのに金が要る。地方から出てきて親に見放され、一人ぼっちになった女が大金を稼ぐ方法つったら、ひとつしかないよな。そう、売春さ。  ハナちゃんも最初は、景虎が学校に行ってる間に店を通して客を取ってたんだ、けどよ……足りないんだよな。いくら頑張っても、なんせショバ代として店が半分持って行っちまう。しかも時間だって限られてる。  あの子は店を辞めて、個人的に連絡先を交換した客を自宅に呼ぶようになったんだ。  いわゆる裏引きってやつで、見つかったら女は罰金、男には儂らみたいのが出張ってってナシつけるんだが、そんなもんいちいち見張ってられねェしな。  クスリ買う金が足りねえってんで、最後には景虎が家にいる時間でもお構いなしに客を呼ぶくらいになった。麻痺してたというよりも、おかしくなってたんだ。その頃にはミズタニも入り浸って、ハナちゃんは立派な常ポン……ひっきりなしにキマってる状態になってたらしい。  まあそんなんで結局、ハナちゃんは加速度的に壊れていった。

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