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第三幕 十五、凶猿(ましら)の告解③

 結論を言うと、ハナちゃんは儂に景虎を託して死んだよ。  雨が降り続いて、ジメジメした日だったのを憶えてる。忘れもしねェ、儂はあンとき……散髪屋でパンチパーマあててたんだ。雨なのに。今みたいにスマホじゃなくてパカパカの……こうやってアンテナを伸ばす、あの携帯が鳴ってよ。出るとあの子だった。 「景虎をお願いします。こんなこと、矢野さんにしか頼めません」って焦った様子でな。  確かに何度か、ミズタニと一緒に飲んだことはあったけどよ。そん時の儂には、相方のスケくらいの認識しかなかった。よっぽど、頼れる人がいなかったんだなァ。  ハナちゃんは、景虎と住んでるアパートの近くのマンションの屋上に侵入して、そこから落ちて死んだらしい。  サツは自殺だと断定したが、儂は違うと思う。そのマンションは、管理人もろともミズタニの息がかかってたからな……まあ、真実はわからん。  その後、手続きやらなんやらが立て込んで一年ほど遅れちまったが、儂はハナちゃんに言われた通り景虎を引き取りに行ったんだ。  児童養護施設で初めて見た景虎は、今じゃ考えられんくらいに痩せっぽちで背も小さかったんだぜ。まつ毛が長くて人形みたいで、景虎ってのは名前だけで、もしかしたら女なのかと思ったくらいだ。  ミズタニがどうなったかって?  あいつはな、儂が組長に直談判した甲斐もあって、組とは絶縁になったよ。そりゃそうだ。何の罪もないカタギの親子を、自分のところの商品で食い物にしたんだ。そんなこともあって儂は、先代から二代目を引き継ぐときに、薬物の売買は絶対禁止にしたんだ。  ハナちゃんに申し訳が立たんし、何より……実の親を殺した原因で儲けてる儂らの姿を、景虎だけには見せたくはなかったからな。  ミズタニは絶縁されてから、行方をくらませたよ。東京から出て行ったとか、しょっぱい犯罪で捕まったとかいう噂もあるが、真偽はわからねェ。ただ、間違いなく儂を恨んでるだろうなァ。  泣きそうな顔してんな。すまん。   別に儂ァ仔猿ちゃんにあいつを……景虎をかわいそうだと思ってほしいわけじゃねンだ。  変なやつだろ、あいつ。ぼーっとして、何考えてるかわからんのに、時々鋭くてよ。あんなでも、色々背負って、考えて生きてんだぜって。アンタにだけは知ってほしかったんだ。  ……なんて、アンタはそんなことわかってるよな。詭弁だなって、手前(てめえ)で言ってて思ったわ。こうやって話すことで、少しでも自分の気を楽にしたかっただけかもしれん。  儂はよ、この通りロクでもねえ。いい親をやってきた自信は全くねえ。どころか、あの子をヤクザにしちまったからよ。  景虎が本当に心から望むことを叶えてやりてェと、ずっと思ってるんだ。それだけやって死にてェと。  これから先、抗争になるかもしれん。景虎にはまた、嫌な仕事をしてもらうかもしれん。  仔猿ちゃん、あいつのことを頼む。  景虎の、安心できる場所になってやってくれ。  ……話はこれでひとまず終わりだ。聞いてくれてありがとう。一人の人間として、アンタに礼を言わせてもらうよ。  曇ってきたな。雨が降る前に帰ったほうがよくねェか?  アンタに風邪でも引かせたら、あいつに嫌な顔されちまうからなァ。

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