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【番外編】庄助の有意義な休日①

《最近ピンでようけ出させてもろてますけど、僕は相方のこと大好きですからねえ》  点けっぱなしのテレビから、数年前にエムワンでグランプリを獲得した、年配の関西の芸人のインタビューが聞こえる。  東京は東西どころか国を問わず色んな人種がいて、街を歩いても聞こえてくる声はさまざまやけど、やっぱネイティブの関西弁を聞くのがいっちゃん身体にええわ。五臓六腑に沁み渡る。  俺は棒アイスを咥えながら、ソファに腰を下ろした。今日は外があったかい。ええ天気で気持ちいい。晴れって好きや、最高の休日や。  カゲは朝から、親父さんの買い物の付き添いに行っている。昼メシも一緒に食ってくるって言うてたから、つまり今日は家の中には俺一人。  庄助庄助と、何かと後ろをついて回るデカい物体がいないだけでも、すごく広く感じる。 「は~、たまには一人もええもんやな~」  たとえ俺が寝転がってアイス食ってても、カゲは別に何も言わん。それでも視線は感じるし、色んな意味で多少は緊張するし気も遣う。一人でいると気楽だ、肩の力が抜ける。 《相方と二人で何かを達成するのと、一人で評価されるのはまた別モンですね。二人で分かち合う喜びってもんがあるんですわ。いやもちろん、ギャラも分かち合うんやけども……》  俺はテレビの画面に映る、ふくよかで人の良さそうな男をぼーっと見つめながら、口の中のアイスの棒を舌で弄んだ。  腹は減ってるのに、昼メシを食うのがだるい。カップ麺の気分じゃないし、宅配は高くつく。外に出るのも何か作るのもめんどくさい。 「ん~……」  ソファから腕を伸ばして、充電器に刺さったスマホを手に取った。もーちょいダラダラして、そっから買い物ついでに近所のラーメンでも行くか。  ざらざらした木の感触を舌で確かめるのにも飽きて、ベッドの脇に置いているゴミ箱にアイスの棒を捨てる。特に見たくもないのに、SNSのアプリを開いて、トピックのチェックをするのは、もはや朝起きたときの歯磨きみたいな、当たり前の習慣だ。  近県の水族館でアザラシの赤ちゃん公開、ぶつかりおじさんにぶつかったら損害賠償請求された、新作オープンワールドゲームの発表……それらを流し読みしていると、女の子の写真が流れてきた。  二十六歳の保育士です。もう何年も彼氏いなくて寂しいな。歳上がタイプだけど、会ってくれる人いますか?  顔の下半分の女の子が、シャツを咥えて下乳をこちらに見せている画像だ。正直ちょっとイイ、ドキドキする。しかしこれは、裏垢女子という名の詐欺業者だ。中身はオッサンなのだ。 「しょーもな、こんなんひっかかるやつおるんか?」  とは言いつつ、ひっかかる人間がいるから商売になっているのは、裏稼業に足を突っ込んで嫌と言うほど分かっている。  詐欺業者のその写真には、案の定男からのリプライがたくさんついている。 「かわいい、何カップですか?」「Eカップです、大きいと視線が気になっちゃって」 「オナニーってする?」「します…週に三回くらい。多いかな? 恥ずかしい」  恐るべきことに、これらはすべてオッサンとオッサンのやり取りだ。なんて平和な世界だろう。

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