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第四幕 八、はらわたと境界線②*

 景虎の上半身が、庄助の尻の方に傾ぐ。動きでわかる。これはきっと、ナカを見られている。 「ふ……ッん……」  車内は暗いが、室内灯がついている。相手の顔や身体の状態などを確認する程度なら、十分な明るさだった。だからきっと、あますことなく観察できるはず。粘膜も、その蠢きも、何もかも。 「もしかして庄助は、女の格好をするのが好きなのか?」  そこをじっと見ているせいで、尻に向かって話しかけているような景虎に、庄助は心底腹が立った。  絶対にそれだけは違うと、首を振って否定する。そのたびに、景虎の股座に顔を擦りつけるかたちになってしまう。  そうするとどうしても、わかる。ズボンの下の景虎のものが、硬くなっているのが。  ド変態が。バキバキになりやがって……。  口で息ができない分、景虎の匂いを余すことなく鼻から吸い込んでしまう。  頬に触れるスーツのズボンの生地の匂いの向こうから、景虎の汗と雄の匂いが混じってほんのりと香る。性的に興奮されている事実がどうしても恥ずかしくて、逃げてしまいたくなる。  いやらしい匂いが想起させる全てが、羞恥となって庄助の身体を熱くさせてゆく。 「ふ、ン……ぅ゙、んん」  広げられた尻の穴、露わになった内側の粘膜を、指の先が確かめるようになぞる。きっとこのあと穴の中を掻き回されて、景虎のペニスでいっぱいにされて……考えるだけで、快感を憶えている身体が、溶けそうに疼く。  いや、作業車でセックスなんかしたことがバレたら、国枝に殺されるだけでは済まない。  やや正気に戻った庄助は暴れた。  そもそもセックスよりも景虎と話したかったのだ。  この数日何をしていたのかとか、ちゃんとした飯は食っているのかとか、静流のこととか。  聞きたいことがいっぱいあって、ただでさえ頭の中の整理が追いつかないのに、辱められるばかりで混乱する。 「じっとしろ」 「んきゅっ!? うっ、う……!」  風を切る音がして、尻に平手の衝撃が来た。驚きで体が跳ねる。そのすぐ後で、腫れて敏感になった箇所をくすぐるように五本の指先で引っかかれて、ぷつぷつと二の腕に鳥肌が立った。 「待っててくれって言っただろ? なのに、どうしてお前はあんなところにいたんだ。俺を信じられなかったのか?」  首を振ると、景虎の昂りが頬をかすめる。  逃げるように高く上げていた尻たぶに、景虎の唇がそっと触れた。 「……いっそお前をどこかに閉じ込めてもよかったんだ。俺だけがわかる場所に、世間から隔離して縛り付けて、一生飼い慣らして可愛がって……」 「く、ゥ……んっふ……!」  唇をつけたまま喋られて、かすかな振動に皮膚が粟立つ。皮膚の産毛を揺らすような低い声が、腰から背筋を這い上ってきた。 「首輪をつけて、トイレの世話をして。本当に俺だけの庄助にするべきなのかも」 「ん゙いっ、うぐ、うぎぅッ」  尻の肉を噛まれた。歯で挟まれた柔らかなそこに、ゆっくり力が加わる。じわじわと痛くなってきて、我慢できないくらいの強さになって、もう皮膚が破れる、といった直前のところで解放された。  きつく残っているであろう歯型の上に、今度は熱く濡れた舌先が降ってくる。 「最初から、そうしていればよかった」  ざりざりと毛づくろいのように舐められたかと思えば、つけたばかりの歯型を抉るように舌先を細めて責めてくる。抵抗の手段を尽く奪われて、恥ずかしい格好で好き放題にされている。  景虎の太腿に擦り付けた顔が熱かった。ずっと涙が滲んでいるので鼻が詰まってきて、息苦しい。  本当に監禁でもしそうな景虎の想いの激しさに、庄助は気が遠くなった。

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