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第四幕 八、はらわたと境界線⑤*
情けない女装姿で尻の穴を抉られて、痛みに目を白黒させて、脂汗をかいて、かわいそうだ。かわいそうなのは良くない。もっと徹底的にいじめたくなるから。
「庄助……」
景虎は愛おしそうに、頬に落ちる塩からい涙の筋を舐めた。そのまま、またテープ越しに口づける。何か言いたそうに、庄助は涙の膜の向こうから景虎の目をじっと見返した。
「どうした。喋りたいのか」
こくこくと頷くと同時に落ちた涙が、景虎のワイシャツに吸い込まれた。
「いいぞ。自分で全部奥まで挿れられたら、口のそれ剥がしてやる」
オニ、死んでしまえ。反抗的な顔にそう書いてある。けれど景虎は知っている。この先、庄助がだんだんと素直になってくることを。幸いなことに庄助は、ひどくされるのも結構好きなようだ。
「……う」
庄助は、浮かせている腰をゆっくりと落としてゆく。穴の周辺はキツくても、奥は内臓なのでいくらか湿っている。一番太い雁首まで挿れてしまって、もうあとは飲み込むだけ。なのに、穿たれる痛みで引きつる肉の縁は、進むことも戻ることも許さない。
「ッ……ひ、む」
「しっかり咥えろ、腰落とせ」
先っぽがかすかに前立腺に触れている。すでにもう、肉に食い込みはじめた亀頭が圧迫してくるのが、痛いのに気持ちいい。庄助はこの期に及んで、感じてしまうことを躊躇していた。
まだるっこしく蠢く腰を掴み、下から数回緩く突いて促す。
それでも拒む尻をまたバシンと平手打ちすると、庄助の尻が力なく、景虎の下腹の上にぺたんと落ちた。
「ぉ゙ご……イ、ゔぅっ、んぎぎィ……っ!」
急に陰茎の根元まで腹に埋まって、庄助の腿が痛みと快感に震える。潤滑なく胎内にめり込んだ肉棒は、前立腺を無遠慮に押し潰した。景虎のペニスを温い壁がくまなく包んで、きゅうきゅうと締め上げる。
「はは……いい子だ。ほら、約束」
景虎が口に貼り付けたテープを一気に剥がす。ふやけた粘着面に、口紅の色が写っている。庄助は大きく吸い込んだ息を、すぐさま吐き出しながら喘いだ。
「あ゙、や……っあ! ごほっ、お゙っ」
勢いよく酸素を吸い込んだせいで、咳き込んでいる。馴染むのを待たずに無遠慮に突き上げると、ビクビクと不随意に括約筋が収斂 して、景虎の幹を絞った。
「どうした。言いたいことがあったんじゃないのか」
「かはっ、んっな、あっ……! はひっ、やめ、ろっ」
咳き込むたびにナカが締まった。庄助の奥から、防衛本能としての腸液が滲み出してきているのがわかる。
「あっ、ああっ、あがぁ~~っ!」
根元から腹の中にぐりぐりと押し付けるように、直腸をかき混ぜる。庄助は、頭の奥で弾ける火花を追いかけるように上を向いた。
やはり痛くても興奮しているのか、二人の腹の間にある庄助のペニスは、汁をこぼしながら勃起している。
「どうした、喋らないのか?」
痛みと異物感に大量の汗をかいて、早くも息も絶え絶えだ。しかし庄助は、反らした頭を戻す勢いのまま、あろうことか景虎に頭突きを食らわせた。
「……ぐ!?」
さしもの景虎も、額への不意の一撃に目から火花が出た。ぐらつく視界の中、庄助は短い眉を吊り上げては、目を三角にして怒っていた。
「先にチューくらいしろ、あほんだらっ!」
久々にまともに喋った一言目がそれだったので、景虎は驚いた。
どういう感情なんだ、それは。
盗聴器で盗み聞きをしていたとき、庄助はタニガワに言っていた。好きな人としかキスをしないと決めている、と。
本当はその言葉にドキドキしていた。日常的にキスをしている自分を、もしかしたら庄助は好いてくれているのかと。
隣にいる静流にバレないように、いつもの無表情を押し通すのは大変だった。平静を装うために、タニガワとのキスを避けるための方便なのだと、わざわざ思い直したのに。
そんな可愛いことを言われたら、勝手に期待してしまう。
「……バカだな」
「お前に言われたないわ、ハゲ」
耳に馴染んだ関西弁の憎まれ口ごと、奪い去る。テープに表皮を持っていかれて、少し毛羽立つ庄助の唇に、景虎は自分のそれを押し当てる。
さっき小便まで舐めてやったのに、忘れてるな。
そう思ったが、口に出すのはやめておいた。愛おしい庄助がせっかくキスをねだっているのに、それを言うのは野暮だ。
「ふぬ……」
庄助は目を閉じた。やかましいくせに、キスするときはちゃんと目を閉じて静かにしているのが、いつも面白い。
歯を一本ずつ舐め、歯茎と頬の間に溜まった甘い唾液を舌で掻き出してはすすり、ねちっこく口腔内を蹂躙してゆく。
蕩けきって身体を預けてくる頃合いに、後ろ手の拘束を解いてやると、少し躊躇い気味に抱きついてきた。
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