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第四幕 八、はらわたと境界線⑥*
「ん、んっ、ぷふっ、カゲぇ」
キスをしながら体勢を入れ替えて、ゆっくりと押し倒される。少しでも動くと、軋むような鈍痛が直腸を苛む。散々叩かれた尻が、地面に擦れてヒリヒリした。
「……それ、なんだった? 名前」
要領を得ない質問に、庄助は首を傾げる。景虎は、少し忌々しげに続けた。
「その格好。向田の店のキャストの時のだろ。源氏名はなんだった?」
「な、なんで教えなあかんねん、そんな……あうっ!」
「言えよ」
腹側を膨らんだペニスで捏ね回されると、快感と痛みが一緒くたに体中を巡った。馴染みはじめたナカの肉が、柔らかくなっているのがわかる。
あ。これ、よくない……。
庄助は内心慌てた。
気持ちいいことと一緒に痛いことをされると、脳みそが勝手に、景虎にされる痛いこと、イコール気持ちいいと判断するようになってしまう。それを今までの経験で、庄助はわかっている。
大きな手が不意に、庄助の頭を撫でた。愛おしそうに見つめてくる景虎の、暗い場所で見る目の色、顔の造形。庄助は、犯されていることも忘れてドキドキした。
「ん、カゲ……なあ、ていうかここどこなん。なんで……」
触れられた頭皮が痺れるほど甘く疼く。景虎の手に頬を擦り付けようとした途端、腰の骨を掴まれ奥に打ち付けられた。庄助の息が止まる。
「うぎゅ……っ! ぃっ、痛いって......! 聞こうとして、ンのにっ、ひど……っうああっ」
「俺が先にお前に質問してるんだろ? 答えろ」
景虎は口の端を上げて意地悪そうに笑い、容赦なく激しいピストンを開始した。
相変わらず潤いが足りなくて痛むが、それでも裂けるほどではない。景虎の凶悪な大きさのものをずっぽりと咥え込めるのは、ここまでの調教の賜物だった。
「ぐゥっ、はあっ、は……なまえっ? なまえっ、しょこらっ、しょこらちゃ、ん……ってぇ」
耐えきれず、庄助が白状する。
「しょこらちゃん?」
「うんっ、そう! 言うたからもうやめっ」
「バカみたいな名前で興奮してきたな……一旦ナカで出すぞ」
大体いつも庄助より後に射精する景虎が、珍しく余裕なさげに言う。|胎《はら》の奥の方で生温い精液がぶちまけられるのがわかった。
「……あっ、あ、や……。あ゙ぁ~……」
中に出されながら、膨らんだ前立腺をごりごりとすり潰されて、庄助は悶えた。密閉された車内は酸素が少なくて、一呼吸ごとの空気が喉と肺にずしりと重かった。
聞きたいこと、話したいことが、溢れるほどあるのに。全部、身体と脳が感じる痛みと快楽に持ってかれる。
ウィッグの長い髪が、汗ばむ背中に触れて痒い。今何時だろう。あつい、気持ちいい。迫り上がってくる甘さに、思考がぶつ切りになる。
景虎は、胎内に精をじっくりと塗りつけるようにペニスを動かしている。ぐちゃぐちゃに濡らされた暗くて狭い穴の中で、肉棒はまたすぐに硬さを取り戻してゆく。
精液のおかげで、いくらか滑りやすくなったナカがうねる。景虎の腰に足を絡ませて、必死で異物感に耐えているうちに、庄助はスカートの中に射精していた。
「ん、んっ……は、あぁ……っ! ひぃン、いってる、イッて……る!」
「その格好でゾンビーズ・ハイウェイにいたのは、国枝さんの指示か?」
「うあっ……はっ……ちが、俺の、独断や。国枝さんはこのことを知らん……ぁ、あっ!」
「なるほど。じゃあ質問を変える。取引が行われることをどこから……誰から聞いたんだ?」
向田から聞いた。そう言えばどうなるか。
別に向田が景虎にシバかれようが、そんなことはわりとどうでもよかった。ただ、あのオッサンとつるんでいたと景虎にバレたら、よりひどい目に遭わされるのは自分。庄助はそんな気がしていた。
「それは……それは俺の独自の調査網でっ、おぎゃっ!」
嘘をつくなとばかりに、前立腺の辺りを先端で擦られた。イったばかりで神経が剥き出しになっているような胎内は、痛みよりも快感を貪欲に拾い上げる。
「本職相手に嘘はやめておけよ」
「ぐっ、くぅ……嘘じゃな……お前こそ、そうやってやらしいことばっか、つーか今イっ……たのに、ひゃわっ、やンっ……!」
尋問されているというのに、庄助は蕩けた甘い声を出した。前立腺の膨らみをぞりぞりと雁首でこそぐように擦られると、快感が骨盤の中でぶくぶくと増殖し、膨らんでゆく。濁流のような激しさに、車全体がギシギシと揺れて鳴いていた。
「せっかくだ。もっと女みたいな声で鳴いてみろよ」
「ひっ、やっあっあ、クソッ……っ、ぁん、うああ……っ!」
庄助のペニスはまた勃起して、ずり上がったスカートから飛び出している。先端がびっしょりと濡れていて、ピストンに揺れるたびに、糸を引きながら汁を撒き散らした。
「カゲッ、あ……っ! おま、後でそっ、掃除しろよっ……! う、んんっ……」
これから先、この作業車に乗るたびに思い出すかもしれない。ここで抱かれたこと、景虎の指の動きや声を。
そうやって身の回りのどこもかしこも、景虎の痕跡だらけになってしまったらと思うと、庄助は切ないような泣きたいような、不思議な気持ちになった。
景虎の逞しい腕が、身体を掻き抱いてくる。頭をギュッと抱え込まれて、刺青の胸、柔らかな筋肉に顔を埋めると、いつもと違うボディソープの匂いがした。
心臓の音が傍で鳴る。荒い呼吸が聞こえる。じっとしていると、景虎のカタチやくびれや反りを身体の中で感じる。ここのところ心細くてずっと、景虎の体温に触れたかった。心と身体のどちらもが、喜んでいた。
が、正気が快楽に反抗をする。流されるなと、ストップをかけてくる。庄助は、先ほどから言おうとしていたことを、ようやく口に出した。
「なぁ……兄ちゃんはカタギやねんから、危ないことに巻き込むのやめろって、あッ」
兄ちゃん、という単語を聞いて、景虎が明らかに眉をしかめた。腹の奥の柔らかな壁が、硬さを増すペニスによって、小刻みにノックされている。
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