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第四幕 八、はらわたと境界線⑨*
「……壊れろよ、一生面倒見てやる」
本気とも冗談ともつかない声音だ。こうなってしまうと景虎に泣き落としは通じない。
内臓がせりあがる感覚に、口から胃液が逆流しそうだ。
視界がピンクに爆ぜる。舌の上に乗せるとパチパチ弾けるキャンディーみたいに、甘い快楽の信号がぶつかりあって混ざって、耳の裏に抜ける。
突き上げられた胎の奥が、泣いているみたいにじくじく濡れている。暗闇の中で景虎が見下ろしてくる。長い前髪が汗で湿って、それをたまにかき上げている。その下にある、誰も寄せつけないような冷たい眼に宿る熱を見ていると、胸がキュンとした。
……こんなにめちゃくちゃにされてるのに。たまらんようなる。
もうあかん。いや、知ってた、もうずっと前から俺はあかんようになってる。
「あ! カゲそこっ、そこいっ……ひゃんっ! あ゙~~っ……ぎもちい、やぁあ゙っ……んぎぃっ」
「マンコの中、熟 れてきたな、俺も気持ちいい」
もう、否定する気も起きない。
貪欲なのだ。景虎もそうだが、庄助自身も。
もはや当たり前のように、景虎の激しいセックスが好きだ。こんな気持ちいいこと、好きに決まってる。
乱暴に犯されて脳みそごとぐちゃぐちゃに掻き回されるのも、力の差を感じて屈服するのも。どちらも確実に快感なのだと、もう認めざるをえない。何をされたって根底に、景虎は自分を愛しているとの揺るぎない信頼があるから、最終的には身を委ねることができてしまう。
「も、あはあ゙っ……いく、うっ……!」
萎えたペニスのまま、身体の芯が昂って弾ける。もはや、どこで、何でイってるのかわからない。脳髄を直接蕩かすような絶頂は、景虎とセックスするまで知らなかった類のものだ。
結腸から先端を抜いて動きを止めると、景虎は庄助を見下ろした。顎から滴った汗が、ぽたりと一滴庄助の首筋に落ちる。
「……なあ、キスしていいか?」
いつも了承もなく、食らうような勢いでディープなやつをしてくるくせに、こんな時に遠慮がちになっている景虎が可笑しかった。
「そ……のまえに、ちゃんと……連れてくって約束しろ」
上がった息の合間から、庄助は途切れ途切れに言った。だらだら流れる涙と一緒に出てくる鼻をすすって、景虎を強気に見返す。
「だめだ。全部片付いたらちゃんと説明する」
「相棒って言うたくせに……やっぱ嘘やん! うそつきっ!」
景虎は、キイキイと九官鳥のようにまくしたてる庄助の、汗まみれの丸い額にキスをした。
「嘘じゃない。相棒だから、大事だからこそだ。これは俺が俺であるための、最後の一線なんだ」
「な……むつかしいこと言うなよ! 騙されへんからな!」
「なあ、庄助。ほんと言うと俺はな、境界線なんかいつなくなってもいいんだ。それこそ、庄助が祭りの時に言ってた、キャベツ入りのたこ焼きとお好み焼きみたいに」
「なんや、それ……」
「いっそお前に甘えてしまいたい。でも……これは俺が自分で向き合うべきことなんだ。俺がお前の相棒として、そばに居るための一線だ」
見下ろしてくる景虎の表情は、どこか切なげだった。景虎が景虎なりの、自分の言葉で話す一つ一つが、庄助の胸をぎゅっと締め付ける。
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