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第四幕 八、はらわたと境界線⑩*

 また相棒なんて言うて、もう騙されへんぞ。  そう思うのに、嬉しい気持ちが止まらない。犬じゃなくて良かった、犬だったら今頃、気持ちを隠しきれず尻尾を振りすぎて、千切れてしまっていただろうから。 「なんやねんアホが……意味がわからん。あー、祭りのこと思い出したら、腹立ってきた……」  庄助は、景虎の頬を手のひらで挟むと、自らキスをした。かぷかぷと下唇にかみついて、不機嫌そうに景虎を睨んだ。 「もういい。これ終わってから考える。せやからはよ終われ」  景虎は不思議な生き物でも見るような珍妙な顔をしたあと、ちいさく笑った。 「あ……ふあ、んんっ、カゲ……」  思考が溶けて流れてゆく。ズンズンと骨に響くようなピストンが、思考を揺さぶる。フィニッシュを目指して速くなる動きに、庄助は涙を散らして必死に景虎の首に縋りついた。 「そろそろ、出すぞ……っいいな?」  獣の唸りのように絞り出す声が、鼓膜を揺らす。庄助は必死に頷いた。 「うん……っ、出していいっ……」  ナカでも腹でも顔でもいいから、景虎の熱さを感じたい。犯している側のくせにすっかり余裕がなくなって、必死に腰を振っているのが好い。胸の中がいっぱいになる。行き場のない気持ちで、汗で張り付いたシャツの背中に爪を立てた。 「ああ、イく……なあ、さっきのところに出すぞ。しっかり孕めよ、しょこらちゃん」  ふと、熱っぽい声が笑気を含んだ。あっ、と息を漏らした時には遅く、 「ひぎゃっ……!?」  景虎のペニスの先端は、奥の弁を貫いて向こう側、結腸に飲み込まれてしまった。  脳天を突き抜ける強い刺激に、二人同時にぞわぞわと身を震わせる。  庄助は白い眼を剥いて、とろとろと勢いのない、ゆるい射精をした。  身体の奥の奥に、大量の精液を注ぎ込まれている間、遠くの方で何かが聞こえていた。  大きな肉食動物の寝息のようなその音は、聞き覚えがあった。 「ん……なあ、もう一回だ、庄助……しばらく抱いてなかったんだ、いいだろ?」 「いっ……今出したとこやろ、金玉バグってんちゃうんけ、病院行け! や、待って……待っ」  景虎がしつこく唇を押し付けてくる。庄助は音の出どころを目だけで探した。  助手席に放置していたバッグの中で、庄助のスマホのバイブが静かに唸りを上げていた。景虎の重い身体を押し退けると、萎えても質量のあるペニスが、胎内から抜け出る感触に声が出た。  嫌な予感がして、ビーチフラッグのごとく勢いよくバッグごと取り付く。スマホの画面には、かけてきてほしくないランキングの、常に上位に位置する男の名前があった。 「もしもし……」 《こんな時間にごめんね。律儀に電話に出てくれるの庄助だけだよ。急なんだけど明日さ、ウチの若頭が緊急帰国するんだ》  通話口の向こうの国枝の声は、眠そうに掠れていた。耳から離して画面を見る。時刻は午前一時二十分だ。  明日もクソも、日付はとうに変わっていた。 〈続〉

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