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【番外編】ミーツ・シーオッターズ・ハッピーラブ・ジャーニー④
「食い放題て、ソワソワしてまうよな。何食ったらええかわからんから、とりあえず唐揚げとポテト食うんやけど、よう考えたらそんなんどこでも食えるやん! って、そこそこ腹いっぱいになった後にいつも気づくねんな~」
フライドポテト、ローストビーフ、まぐろの寿司、ベーコン、だし巻き玉子、サーモンの寿司、油淋鶏 、ピザ、ミートソースパスタなどが無秩序に、ビュッフェ用の四角い皿の上に山積みになっていた。雪崩のようになったパスタが六つの浅い仕切りをまたいで、他の食べ物のスペースにまで侵入している。
浴衣に半纏姿の庄助は、袖を肩まで捲り上げて、マルゲリータピザを手掴みで口に運んだ。ホテルを決める際に、名物である海の幸を楽しみにしていたのは他でもない庄助だったのに、そのことをすっかり忘れていたようだった。
「カゲも取って来いよ、味噌汁だけやのうて、伊勢海老の茶碗蒸しもあった!」
「ん? ああ……」
心ここにあらずといった景虎の生返事に、庄助は金色の眉をしかめた。
「なんかお前、いつも以上にぼんやりしてる」
「そんなことは……」
「もしかして、俺が一人で大浴場行ったから怒ってる? しゃーないやん、カゲが墨入ってるからって、じゃあ俺も部屋の風呂でいい……とはならんやろ。せっかく来たんやもん」
いくら庄助の裸を他人に見せたくないと言えど、浴場に行くなと止める権利などない……いや、もちろん本音は止めたかった。お前は俺のものなのに、裸を他で晒すなんてやっていいことと悪いことがある。そう言って部屋に着いた途端に剥いて犯しまくって|理解《わか》らせたかったが、景虎は我慢したのだ。なぜなら、これは楽しい二人きりの旅行なのだから。大人になったものだ、進歩だ。
「……別に怒ってはない」
景虎は庄助の皿のローストビーフを、箸で掴んで口に入れた。俺のやのに! と庄助は小さく叫んだ。
「なんというか……きっと気持ちに、自覚が追いつかないんだと思う」
「何の話や?」
「庄助と二人で遠出して、ラッコを生で見て……その事実にまだ手が震えてる」
「はは! 情けな~」
庄助は吹き出した。トマトソースのついた庄助の唇が、今度はだし巻き玉子に食らいつく。家族連れでごった返すビュッフェ会場のざわめきが、疲れた身体になぜか心地よく染み入ってくる。景虎はまた自嘲的に、しかしどこか憑き物が落ちたようなスッキリとした声音で呟いた。
「ああ……そうだな、俺は情けない。今の今までなんとなく、親父や国枝さんの目の届かないところには行けないものだと思ってたし、旅行なんて行こうとも思わなかった。だから……朝からずっと不思議な感覚が続いてるんだ」
思わず押し黙った庄助の隣、若い母親が、泣く赤ちゃんをあやしながら、テーブルの横を申し訳なさそうに早足で通り過ぎていった。
「なあ、もしかして……カゲって……」
庄助は景虎の端正な顔をじっと見つめると、急に深刻そうな表情になって、ごくりと喉を鳴らした。
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