音を立てて存分に吸い、口内から抜くと、今度は濡れたままの指を放置して水かきの部分を舌先でチロチロと舐めた。 「い、ひっ……やめ、ゆびっ……あかん」 　震えながら庄助がそう言うと、あっさりと景虎は指への愛撫を止めてしまった。荒い息と余韻だけを残して、庄助の真っ赤な顔を見上げる。もうすっかりと蕩けてしまっているのを、理性と羞恥心が押し留めているような表情だ。 「あぁ……っ、も、カゲっ……」 　期待で尖り始める乳頭に、息を吹きかけては湿らせる。むずかるような声を漏らして、庄助は景虎の肩に腕を回した。刀疵の刻まれた頬に、浴衣の繊維が触れる。 「カゲぇ……」 　言わなくてもわかるだろう、とばかりに身体を擦りつけて訴えてくる。その恥じらいを汲んでやりたい。でも、もっと恥じらう顔が見たい。支配欲と愛情の狭間で、心が揺れ動く。 「物欲しそうにしなくても、ちゃんと舐めてやるよ」 　浴衣の下の肋骨を確かめるように撫でると、息を呑む音がした。 「せ、宣言せんでええっ」 「いつ見ても、やらしくて可愛い乳首だ」 　舌先でくるむようにして口の中に含むと、庄助の身体がビクンとしなった。舌を押し返す、ぽっちりと膨らんだしこりは、小さいのに主張が激しくて生意気だ。 「はっ、あ……！　んや……っ、変なこと、言うなってぇっ……うぁあっ！」 　地ならしするように、勃起してくる粒を舌の筋肉で押し潰すイメージで舐める。付け根を舌先でほじくり返して、ツンと尖った柔らかい皮膚を吸い上げ血を集めて硬くさせると、またゆっくり押し潰してゆく。 「やめ、やめっ……それ、やっ！　ずっとするのいやや、無理や、無理になっ……ううぅ～～！」 　何度も繰り返していると、庄助の腰がだんだんと浮き、足先まで強張ってくる。景虎の浴衣越しの刺青の肩に、指先がきりきりと食い込んだ。余裕がなさそうだ。 　背中を抱いて胸を引けないようにすると、腹のあたりに庄助の硬いペニスが擦れた。そのまま音を立ててまた丹念に吸うと、フニャフニャと熱が出たときのうわ言のような声を出して、庄助は景虎の腹筋にペニスを擦り付けながら射精した。 「いつもより敏感だな」 　絶頂して脱力するのをゆったりと布団に押し倒すと、今度は反対側の乳首に食らいついた。 「にぎゃあっ！　なっ、な……もうええって！」 「こっちも舐めたい。庄助が可愛いから」 　腹についた庄助のザーメンが、景虎の陰毛の中に滑り落ちてゆく。気にする様子もなく、景虎はまた庄助の胸を嬲りはじめた。庄助は真っ赤な顔を思い切り逸らして、景虎のゆるくウェーブした髪に指を絡めている。 「あ、ひっ……んんっ、ふきゅ、うぅ……」 　荒い息を継ぐ間の鳴き声が、次第に涙を帯びたように濡れそぼってくると、景虎は唇の動きを止めて庄助を見上げた。腕で顔を隠している。 「泣くほど気持ちいいのか」 「うっさいっ……！　旅行来てんのにこんなサカってほんま……アホっ、変態！」 　景虎は、その言葉をそっくり返したかった。なぜなら庄助が朝、荷物の中にしっかりとゴムとローションを入れていたのを見て知っているからだ。一丁前に悪態をついているくせに、サカっているのはどっちだ。だが、そのことをまぜっ返せば、きっと本格的にへそを曲げるだろう。 　もちろん拗ねるのを押さえつけて、食い散らかすように犯すのも好きだ。しかし特別な今日は、いつもよりも優しく甘やかしてやりたい。 「そうだな、来てよかった。お前のことが、もっと好きになったから」 「……もっ……!?」 　庄助の耳が、瞬時に燃える。表情を見られたくないのか、顔を隠したまま固まっている隙に、景虎は腕を伸ばしバックパックのジッパーを開けて、しかるべき用意を取り出す。 　気配に息を呑む庄助の腕を、そっと取る。現れた真っ赤な頬にキスを落とし、うぶ毛を震わす距離で真剣な声で告げた。 「庄助が好きだ」 　何度となく囁かれた愛の言葉だというのに。鼓膜を甘く射抜く切なげな低音に、なぜか泣きたくなる。庄助は何も言わず、目を閉じて猫のように頬を擦り付けた。 　気持ちが言葉になって溢れてしまう。それより先に、庄助は自らの口を塞ぐように、景虎にキスをした。その行為はもはや、愛の囁きへの返答にほかならないのに、彼は頑なに言葉にだけはしなかった。