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第四幕 九、デビル、がんばる④
さも愉快そうな声に、庄助は顔を上げた。
「知っ……とったんですか」
「あんたの本名と生年月日、出身地や出身校、普段履いてるパンツの色も知ってる。ヤクザの情報収集能力を、甘く見てもらっちゃ困る」
タニガワは縛られていた手首をブンブンと振って、ニヤリと笑った。
もちろん、彼が庄助の正体を知っている可能性は十分に有り得るとは思ってはいたが、クラブでのタニガワの態度はまるで、何も知らずに男の娘と全力で遊ぶ変態おじさんそのものだった。ならば彼は、大した役者だったということだろうか。
「じゃあ、タニガワさんが俺の誘いに乗ってきたのって……」
俺を逆に嵌めようとしてたんですか? と、尋ねた庄助の目を、タニガワのじっとりと潤んだ黒目がじっと見返してきた。
「それはちょっと違うな。あんたらの目的なんて俺にはどうでもいい……ただ会いたかっただけさ。俺はあの男の娘キャバで、しょこらちゃん、あんたに惚れたから」
「ほえ、ほっ……ホレ!?」
もしかしてこいつ、俺に取り入って上手いこと逃がしてもらおうとしてる? と、庄助は一瞬疑ったが、タニガワがその土人形のようなずず黒い頬を、奇怪な桃色に染めたのを見て、ゾッとした。本気の情欲と恋慕の眼差しだとわかる。
「あの晩、睡眠薬を盛られたって気づいたとき、ヤクザの幹部相手にえらく度胸があると思ったが、やっぱり俺の目に狂いはなかったよ。あんたいい女だ……その彼シャツエロくて可愛いね」
「あ、うん……ありがとうございます……?」
いやらしい目でふとももを睨め回されている気がして、庄助はシャツの裾を引っ張った。胎の奥深くに出された景虎の精液は、脚を伝って垂れるどころか、不安になるほど全く出てこない。
「で……このまま、何事もなく放免ってわけじゃねえんだろ」
イクラに頭突きを食らってパンパンに腫れた鼻柱のまま、タニガワは笑った。満身創痍の姿は見ているとさすがに痛々しく、庄助は車から持ってきたウエットティッシュをタニガワに手渡した。
「それなんやけど、タニガワさんにお願いしたいことがあって」
「ちょうど今、俺もしょこらちゃんに顔面騎乗されたいと思ってたところだ」
「全然ちゃいます。……今、川濱組の中で起こってることとか、“タイガー・リリー”のこととか……俺らの前で、全部話してほしいんです」
顔面にこびりついた黒い血を、ティッシュでこそげるように拭いながら、タニガワは目だけを庄助に向けた。
「そしたら、イクラの身柄はタニガワさんに引き渡します。セトツグミさんのこと、ちゃんと聞けるかも……どうやろ?」
劣化して弱々しく光るLED照明の下、庄助の茶色の瞳は爛々と輝いていた。
「乗った。ただし、それだけじゃ足りねえな……しょこらちゃんのパンツもう一枚追加だ」
腫れた顔の筋肉を動かすと痛いのか、タニガワは申し訳程度に口角を上げた。
「……残念ながら、今ノーパンやねんなぁ。ほんなら、今度店でサービスしますわ」
庄助は白いシャツの裾を、挑発するようにかすかに持ち上げ、ニヤリと笑った。目覚めたての悪魔のような、鮮やかな無邪気さと妖艶さがそこにあった。
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