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第四幕 十六、飢えと慕情④*
しがみついてくる庄助の、体の奥から溢れる熱と震えが、どうしようもなく景虎を興奮させる。
ツンと弾力を増す乳首を、布越しに根本から縊り出すように引っ張ると、庄助の腰がビクンと跳ねた。そのまま、耳の穴を舌で犯す。音を立てて忍び込み、舌先と吐息で責め立てると、庄助の指が肩に爪を立ててきた。
「んぐ、ぅっ……やぁあー……っ」
快感にとろけ始めた庄助の唇から、女みたいな高い声が漏れる。素直になるのがいつもより早い。きっと一刻も早く、羞恥の狂乱の中に身を投じたいのだろうと察する。
可哀想で、健気で、興奮する。
「やじゃないだろ、嬉しそうな声出しやがって」
唾液で濡れそぼる耳を震わせるように、わざと意地悪く囁くと、庄助は頭をゆるく振った。
「んっ……う、……だって、は……おっ」
髪を掴んで上を向かせると、喉仏を食んだ。ごくり、と飲み込んだ唾液が、庄助の食道を通ってゆくのが感触でわかった。
「……食いたい」
唇に当たる軟骨の感触。舌先でそこを遊ぶと、庄助の喉の奥がひゅうと鳴り、ペニスを包む肉が収縮した。
想像する。庄助の喉仏をこのまま噛み潰したら、たちまちに軟骨が砕けて割れて、破片が気道を塞いでしまうだろう。
そうしたら、窒息の間も与えず喰い破りたい。真っ赤な血が噴き出して、息をするたびにぷくぷくと、命の色の泡が生まれる。
なんて美味そうなんだ、庄助は死体になってもきっと美しくて可愛い。苦しまないように即死させたあとは、ゆっくりはらわたを食いたい。愛おしくて美味くて、きっと俺は臓物の中で射精してしまうだろう。
先ほど、殴ってくれという庄助の頼みを断ったが、正直それをして正気でいられると思わないからこそ、景虎は断ったのだ。泣くほど殴ったら? もうやめてと言ってもやめなかったら? 庄助はどんな顔をするのだろうかと、想像してゾクゾクしてしまったから。
こんなに凶暴な、性欲とも支配欲とも食欲ともつかぬ衝動が、まだ身体に眠っているのかと、景虎は恐ろしくなる。
けれど、知っている。例え物理的に庄助を殺そうが食らおうが、一つになどなれはしないと。身体はすぐ、否応なしに庄助の肉を糞に変えるだろうし、脳は年月とともに記憶をあやふやにしてゆく。
食べたいくらい好きなのに、どうしたって自分のものにならない。今まさに腕の中にいるのに、お互いの皮膚や骨が境界として邪魔をする、そのもどかしさが胸を焦がす。一生届かない愛しい欲望のかたち。
庄助に出会って景虎は知った。狂おしい、はつ恋を。
「か、げ……ぇっ、あ、あ、かはっ」
庄助の不安そうな声がする。急所をしゃぶられながら胸を弄くられて、どうしたらいいかわからないのだろう。
喉仏を覆う薄い皮膚を吸い上げて跡を残すと、景虎は庄助を抱きしめた。
「……庄助」
庄助の放つ熱を、この世界に留めておきたいと強く思う。
景虎に対して、死なないでくれと泣いた。裏切られたことよりも、ナカバヤシの身を案じ、彼が失われてゆく恐ろしさに泣いた。その庄助の弱さと優しさが、景虎にとっては何よりも尊い。
これ以上傷ついてほしくない、誰にも手の届かない場所に置いておきたいのに。
邪魔なシャツを奪い去ると、裸になった庄助のたどたどしい指が、景虎の首筋に触れてくる。丸い爪先が小さく、喉の骨をなぞった。
「カゲも脱いで」
いつにない熱心さで服を剥ぎ取られる間にも、庄助にキスをした。夢中になって丸裸の庄助の薄い胸を揉む。しなやかな筋肉を包む肌は、前回つけた噛み跡をまだ残している。
庄助は景虎の裸の胸を染め上げる刺青に、そっと指を伸ばした。
「……好きや」
熱を帯びた声と、エアコンの稼働する音が部屋に静かに響く。
「あ、あの……カゲの刺青がな。好き……」
取り繕う庄助の瞼の下で、眼球が泳ぐ。群れから外れた生物の証を好いてくれる、そんな庄助を心から愛している。
どうしたらいつまでも一緒にいられるだろうか。ずっと考えているのにわからなかった。その、わからないことを埋めるように、ただ庄助の裸体を強く抱きしめた。
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