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第四幕 十六、飢えと慕情⑥*

「うぅ~っ……むり、っ……」  先ほどから庄助はおぼつかない動きで、腰を振っている。この前突破したばかりの結腸まで入り込んでしまうのが怖いのか、ぺたんと座り込まないように腰を浮かせている。  景虎の腹に食い込む指に、汗が滲んでいる。腰の動きに合わせてペニスが揺れて、粘性の液が景虎の腹の上で軌跡を描いた。 「あぅ……やぁっ」  しかし少し乳首を引っ張るだけでも、庄助の動きは止まってしまう。敏感なのは結構なことだが、なかなかに焦れったい。 「なあ、そんなんじゃいつまでたっても俺はイケないぞ。手伝ってやるよ」  ギシリとベッドを軋ませて、景虎がゆっくりと起き上がった。庄助の尻を掴むと、入り込んだ熱の塊で、いっそう深く身体を割り開いてゆく。 「ひゃ、め……っ、あああっ! それ……深っ、うゔ、うぐ、あァっ……」  目を白黒させて、肩の部分の刺青に爪を立てる。突き入れられ、奥に引き伸ばされた肉ひだが、ローションで滑る。庄助の括約筋の輪がペニスを締め付けるたび、景虎は甘やかな息をついた。 「あ、あっ……カゲ、いっこ聞きたい、いっこ……おっ」  庄助が喉を反らすと、こめかみからもみあげにかけて、じっとりと滲んでいた汗が、つるりと滑り落ちた。その塩辛い体液を舐め上げながら、景虎は、なんだ? と短く問うた。 「あの時ナカバヤシさんを殺してたら……カゲは俺のこと嫌いになってた? それとも……」  殺す踏ん切りがつかず、自分の手を汚せなかったことを悔いているのだろうか。庄助は馬鹿だ。嫌になるくらい、中途半端なままだ。  都度、痛みや悲しみとまともに目を合わせて、もしこの先ヤクザになったとしても、そんなことでは消耗するだけなのに。  けれど、それはきっと庄助の持つ美徳だ。仕事だと割り切り、人を傷つける痛みを鈍麻させ慣れている景虎や国枝には、とうに取り戻せない範疇の話だ。なんて愛らしくて、憎らしい。 「勘違いするなよ」  腰骨を掴まれ、結腸の手前まで突き込む。ぐちゃぐちゃと搔き回すと、庄助は首に縋り付いてきた。 「や゙っ、い……待っ、おぁっ、あ゙、あっ!」 「あの時俺は……ナカバヤシの心配をして殺人を止めたわけじゃない。あいつを殺したことで、ナカバヤシがお前の心の中に、人生に入り込むのが嫌だったんだ。庄助の心に入り込めるのは俺だけでいい、そうだろ?」 「あ、わっ、そんなっ……んっ……! でも、ぉっ……」 「俺は庄助の心も身体も、ありのままを愛してるんだ」  鼓膜に、愛の囁きを響かせる。伝えられることが嬉しかった。 「逃がしてやろうかと思った。手放そうかとも何度も思った……でも、お前がそんなことで不安になるくらいなら、離したくない。好きだ、庄助が。他の何より、誰よりも」 「なんで……っ俺なんか……」 「わからん。庄助がすごく可愛いんだ……」  はたして一般的には、愛する人間というものは条件で選ぶものなのだろうか? 景虎にはよくわからなかった。男女問わず、人を好きになったことがなかったから。  庄助と出会って、表情や話す言葉や仕草、肌の触り心地や匂いの全てが好きになった……なんて、そんな答えでは、庄助は納得してくれなさそうだ。  張り出たカリの部分で、腰を引くときに前立腺を引っ掛ける。何度も強く打ち付けると、奥の柔らかな壁がはくはくと口を開けてきた。吸い付くようなそこの動きがものすごく気持ちよくて、つい押し入りそうになるのを、景虎は理性で押し留めた。これは、痛めつけるためのセックスではないからだ。 「あぅう~……っ、ふに゛ゃ、ゔっ、きもちい……」  ゆっくりとくねらせる腰が、もどかしくも色っぽい。ガキのくせに、男を誘うことだけはすっかり憶えてしまった。往復させると、ナカの浅いところ、コリコリとした前立腺に当たるのがわかる。庄助は、景虎に縋りついてすすり泣いた。  肛門の縁、桃色の粘膜が、景虎のペニスを包んで引きずり出されたり中に入ったりしている。男の肉棒の味を知っている、あざとい尻だ。健康的な肉付きの臀部を掴み思い切り揉みしだくと、庄助は甘えたような声を出した。  腰を掴んでガツガツと突き込入れると、庄助のペニスは少量の潮を吹く。 「ぐう……っ」  押し込みながら丹念に搔き回すと、白い首筋に、透明な汗の玉がいくつも湧いてくる。反った背筋の骨をなぞるたび、庄助の胎内がぎゅっと締まった。くにくにとナカの肉が器用にうねって、括約筋が亀頭と根っこを扱き上げる。強い快感に、景虎の息が詰まった。

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