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【番外編】白日①

 毎年、十二月に入ると、ユニバーサルインテリアの事務所にもクリスマスの飾り付けがされるようになる。  あまり大きいと出入りの邪魔だが、小さすぎると来客にショボいと思われる。そういった、見栄や利便性で選択した結果、背の高めの女性くらいの、よく言えば中庸の徳、悪しざまに言えば中途半端な大きさのツリーが、事務所のドア脇に鎮座することになった。  庄助が嬉しそうに鼻歌を歌いながら、百円均一で買ってきた色とりどりのモールをツリーに巻き付けている。深い緑色をした人工のモミの木は、またたく間に猥雑に彩られてゆく。子供が画用紙に、全ての色のクレヨンを塗り潰すが如くだ。 「おう、庄助。ちぃとコレ、巻きすぎちゃうんかい。だいぶ派手じゃろ」  事務所の外から戻ってきたザイゼンが、ツリーを見てギョッとする。庄助は後ろに下がり、ツリー全体を眺めた。確かにそう言われてみれば、カラフルなビニールモールだらけのツリーが室内灯を反射して、珍妙な服装の人がそこに立ち尽くしているようにも見える。 「う~ん? ほんならもうちょっと雪を散らして、ホワイトクリスマス的な感じにします?」  庄助は首を傾げると、傍においてあった白い綿の詰まった小袋を掴んで、ザイゼンに見せた。 「アホよ、お前には足し算しかないんかい。雪ィ乗せるにしても、先にこっちのモサモサを減らしぃ言うとんじゃ、他のオーナメントつけるとこなくなっとるわ」  ああでもないこうでもないと、ツリーを前に話し合う二人の背中を、国枝は自分のデスクから眺めていた。時計をちらりと見て伸びを一つすると、ニコチン切れの肺が、チリチリと不快にざわめいた。  とにかく師走は金が動く。織原組の開いている賭場も年末は忙しく、ユニバーサルインテリアでは、そこから流れてきた金をレンタル料の入金に見せかけ、税務署に怪しまれないように組み込んでいる。  ちょうど、ザイゼンと一緒に取りかかっていたそれら資金洗浄(マネーロンダリング)の帳簿の最終チェックが、今しがた一段落したばかりであった。 「ねえ二人とも、ちょっといい?」  国枝が声をかけると、二人が同時に振り向いた。庄助は、はい! と元気よく返事をした。ザイゼンによって外されたモールを首や腕にぐるぐるに巻き付け、オーナメントの入った小箱を抱えて、小走りで近寄ってくる。その様はまるで、人懐っこいヨークシャーテリアのようだ。国枝は頬を少し緩ませて、二人に一枚の紙切れを見せた。 「クリスマスのイベントなんだけど。やっぱりザイゼンさんに司会やってほしいんだよね」 「うッ……またワシ、ですか」  色つき眼鏡の奥で睨みつけるように、ザイゼンは一枚のペラ紙を受け取った。『豊島区民いきいきクリスマスフェスタ』と書かれているチラシだ。  ユニバーサルインテリアは、表向きは善良な一般企業だ。その皮を被り続けるために、地域に貢献するイベントに率先して参加し、世間に溶け込む努力を惜しんではならない。  フェスタ当日は、子供たちや若い女性に親しんでもらうため、ユニバーサルインテリアのブースでは、会社のゆるキャラである『ワウちゃん』の着ぐるみを伴い、ビンゴや輪投げなどのレクリエーションを企画している。 「うん。ザイゼンさんの司会は、爽やかだし安定感あって外さないし、しっかり時間も押さずに進むから、主催側にも評判いいんだよねえ。あ、庄助は着ぐるみ着てちびっこ担当でね」 「いいですよ! 俺ワウちゃんやります!」  庄助は勢いよく快諾した。子供と遊ぶのは嫌いじゃないし、何よりワウちゃんの中に入れば、若い女性と着ぐるみ越しに触れ合ったり、写真を撮ったりできる。鼻の下を伸ばしたとして、誰にもバレない。あのうるさい景虎にでさえ、だ。庄助はそれを密かな楽しみにしているようだ。 「いや、まあワシはええんですけども……。ほしたら、当日は国枝さんから、廣瀬(ひろせ)さんにあんじょう言い含めてもらえんじゃろか? ウロウロされたら集中できんけえ」  事務員の廣瀬ヒカリは、ザイゼンに恋心を抱いている。近頃彼女はイベントなど、ことあるごとに会社のカメラマン役を買って出るようになった。ザイゼン以外の社員やレクリエーションの様子を適当に撮影しては、それと同時に自分のスマートフォンでもザイゼンを撮影している。職権濫用も甚だしいが、国枝は面白いのであえて彼女を放置していた。 「ふふ、ちゃんと釘を差しておきます。ヒカリちゃん、カメラロールをザイゼンさんで埋め尽くすことに生き甲斐を感じてんだよね」 「はあ。はよう飽いてくれたらええんですがね……」  十以上も歳下の女のままごとのような好意を、まともに受け取ることはできないというザイゼンは、疲れたようにため息を吐いた。 「あ、せや。国枝さんも一緒に、クリスマスツリー飾りませんか?」  いたずらっぽく歯を見せて、庄助は笑いかけた。隣にいたザイゼンが、上のモンに向かってなんちゅーことを言うんじゃと、慌てて庄助の頭をゲンコツで小突いた。年末で気持ちが浮ついているのを隠そうともしない。小学生みたいだ、しかも低学年の。 「……いいけど、なんで?」 「だって、こういうのはみんなで飾るほうが楽しいやないですか」  率直な言葉に、国枝は鼻白んだ。いつものことながら、こちらの不意を突いてくるような邪気の無さは、自分のようなろくでもない(あるじ)には毒だ。  国枝はたまに、庄助の柔らかい腹の中に悪の種を蒔いて、そこにどんな色の花が咲くのか見てみたくなってしまう。  良いことも悪いこともスポンジのように吸収する素直な男だから、悪い虫である自分は、その肥沃(ひよく)な土の匂いに惹かれてしまうのだ。景虎が首に縄をつけておきたくなる気持ちもわかる。

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