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第五幕 三、暴虐と意地①
目の前の空間がばっくりと割れて、外の光が飛び込んでくる。庄助は目を細めた。
トランクフードが開くと、外の音が一気に流れ込んでくる。建物の外壁を叩く激しい雨、吹きすさぶ風。台風がすぐそこまで来ているのだろう。
涼しい空気が肌に触れる。次の瞬間、トランクの外に乱暴に引きずり出された。
身体がコンクリートの地面に落下して、ようやく、絶望が腹の底から吹き上がってくる。
「おい、起き上がれ」
女の声だった。
明るさに目が慣れる間もないまま、庄助は言われた通りゆっくりと痛む身体を起こす。金髪からぽたりと一滴、汗が腿に落ちた。
「ぐうっ!」
右肩に硬い衝撃が降ってきて、庄助は呻く。
顔を上げると、不織布のマスクを着けた若い女が、涙で滲んだ目に映った。
若いどころか、中学生くらいの子供に見える。黒い髪の少女は、医療従事者が着るような青いスクラブに小さな身体を包み、前髪を眉上で雑に切り揃えていた。
彼女は驚く庄助を冷たく見つめると、手に持ったプラスチック製の筒を威嚇のように振り上げた。
「遅い。はやく立ち上がって、自分で歩け。もう一回叩かれたいか」
脅すために無理矢理低くしているような声だった。流暢だがかすかに違和感がある。国外の人間が話す日本語のイントネーションに近い。
「なあ、あんたら何が目的なん……」
絞り出した声が、掠れる。膝がコンクリートで削れ、微かに血が出ている。立とうにも、後ろ手に縛られている身体はバランスが取りづらい。
ぐらりと揺らいだ庄助の肩へ、また筒が降ってくる。痛みに顔を歪めた。
クリーム色のそれは、よく見ると先端に細いノズルがついていて、家庭用掃除機のパイプにも見えた。
「私はおまえに、質問を許していない」
「……はっ。せやけど、痛うて立たれへんねんて」
庄助は自棄のように、しかし強がってへらへらと笑った。
「おい、手伝ってやれ」
少女が顎で指すと、一緒に車に乗ってきた男女二人の職員たちが、庄助の両腕を掴んで無理矢理立たせた。裸足の足裏に、外気の熱を緩く孕んだコンクリートの温さが絡みつく。
そこでようやく庄助は、周りを見渡すことができた。背後のシャッターは降りて、外の音を遮断している。
ここは、いわゆるガレージハウスのようだ。
車のボンネットの先には、剥き出しの鉄骨が走る吹き抜けがある。その奥の、上階へと続く螺旋階段が、スポットライトに照らされていた。
「自分の立場がわからないか? 言うことを聞かないなら、次はこれ以上に痛い」
筒の先端で、顎をぐっと持ち上げられた。無感情な目で見上げてくる女は、庄助より十五センチほど背が小さい。
自分を攫ったこの組織が一体何なのか、庄助には見当もつかないが、こんな蹴り飛ばしたら飛んでゆきそうな子供を雇っているなんて、よほど人材不足なのだろうか。
「……俺のことしばいたら、あんたがミズタニに怒られるんとちゃうんか? "身体に傷をつけるな”って言われてるんやろ」
庄助が挑戦的な笑みを向けると、少女は微かに眉を上げた。
「拘束を解いてやれ」
短い指示に合わせ、左右を固めていた職員が、庄助の腕を後ろ手にねじり上げた。そのまま引き摺られて、ボンネットに叩きつけられる。
「ぐ……っ!」
スチールの冷たさが胸と腹を刺し、鳥肌が立つ。縛られていた手首は自由になったが、相変わらず上半身は押さえつけられたままだ。車体の細かな砂埃が庄助の金髪や頬を汚した。
少女は迷いのない足取りで近づく。
手に持ったパイプの先が、庄助の浮いた右脇に差し込まれた。
「おまえはきっと、勘違いをしている」
「それ、どういう……」
言い終える前に、パイプの端が跳ね上がった。脇の下に硬いものが食い込み、肩だけが身体から引き剥がされる。骨が、肉の奥でありえない方向へ逃げた。
ごりっ、と鈍く湿った音がした。
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