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第五幕 三、暴虐と意地②

「あっ、あがっ……!? うわあぁあ゛っ!」  叫び声はコンクリートの壁に跳ね返り、自分自身の鼓膜をつんざいた。  肩が外れた。  理解するより先に、視界が真っ白に弾けた。痛みに涙がボタボタと溢れてくる。  右腕が、自分のものではないみたいに力を失い、だらりと垂れた。 「あぐ、うっ……! うあ、あぁっ!」  もはやのたうつこともできない。庄助は身体を強張らせ、ボンネットの上に額を擦り付けるしかなかった。  右の肩にもう一つ、新しい心臓が生まれたみたいにばくばくと血が巡り、引き剥がされた組織が悲鳴を上げていた。 「おまえは、身体に傷をつけられないと思っているだろう。それはある意味正しい。叩いて骨を折れば腫れる、見た目が変わる。だからやらない。でもこれは戻せる」  少女は眉一つ動かさず、庄助の力の抜けた右腕を、小さな手で掴んだ。 「……ぅ、ぁうっ!?」  職員たちが再び庄助の体を固定すると、少女はパイプの先端を、外れて飛び出した肩の骨の頭に押し当てた。 「っやぁ、や、めろ……! ぉあ゛……ッ!」  腕を引かれ、肩に体重をかけられる。逃げ場を失った骨が、肉の奥で押し潰されるように鳴いた。大きな魚が身体の中で暴れているみたいに、重くぬるい感触がビチビチと跳ねる。 「ひぎゅ、ぐぅ……ッ」  声にならない。激しい痛みに、庄助の目の前が真っ赤に染まった。  火を噴くような激痛は、やがて重苦しい鈍痛へと変わっていく。少女は嵌め直したばかりの庄助の肩をぽん、と軽く叩いた。 ​「戻しておいた。でもまだ反対の肩がある。膝も、股関節も。おまえが素直になるまで、全部外しては嵌めてを繰り返してもいい。なにせ、人間の関節は二百以上あるんだ」  白が二百色あるみたいに言うな。庄助は荒い息を吐き鼻水を垂らしながら、胸の中で思った。  少女の声は一切の加害欲も愉悦もなく、ただ機械的であった。きっとこの女の子は淡々とそれを、業務のようにやってのけるだろうと、庄助はゾッとした。  庄助はボンネットにべったりと身を預け、いまだ尾を引く痛みに荒い呼吸を繰り返していた。  めっちゃ痛い。こんなこと何回も繰り返されたら、狂って死んでまう。  カゲは大丈夫やろか……あいつのことやからきっと今頃俺のこと、血眼で探してるに違いない。  俺は、カゲの守りたかった境界線ってやつに踏み込んで、とっ捕まって、結局あいつに心配かけてもーてる。ほんまに俺はどうしようもないアホや。  鼻の奥がツンと痛くなる。昨日のセックスの後の、景虎の美しい寝顔を思った。  景虎が安心して眠れるようになってほしいと、こんなときなのに思ってしまうなんて。俺は頭がおかしくなってしまったのだろうか。  庄助の頬をまた、新しい涙が伝った。 「哎呀(アイヤー)! お兄さん、またいじめられてる? かわいそ、かわいそだねェ」  上の方から男の声がする。その変わった喋り方には聞き覚えがあった。螺旋階段を、ずる、ぺた、ずる、ぺた……と、足を引きずるように下りてきたその男は、ボンネットに伏せる庄助の顔を覗き込んだ。 「痛かった? こんなところで裸で涙流して、ほんっとかわいそうで……確かに、いじめたくなるだヨねェ」  嗤った口から、二股に割れたスプリットタンがチラリと見える。強張る庄助の顔に唇を寄せかけた辮髪の男を、少女は鋭い声で制止した。

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