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第五幕 四、タイガー・アンド・ゴースト④
「もう一度聞く。ミズタニか?」
「はいっ、イエス……イエス!」
「ミズタニは、俺を狙ってるのか。庄助を狙ってるのか、どっちだ」
「……えっ? ひ、イ……イエス、いや、ノー……っ?」
「イエスかノーじゃ分からないだろう。ふざけるな」
「がぼっ……」
雨と流れる血に濡れて、散らばった猫砂が膨らんでゆく。こんなことなら、最初から何もかも自分が尋問していればよかったのだ。昔からやってきたことなのに、なぜトキタたちに任せてしまったのか。一瞬でもやりたくないと思ってしまったのか。
いつからだろうか。こうして、誰かを傷つけているとき、決まって庄助の柔らかい頬や、甘い肌の匂いを思い出すようになった。
自分にできることは暴力しかないのに、庄助を思うと、やめたくなる。汚れた自分の手が、この歳になって初めて苦しい。
ポケットの中、スマホが震えた。すでにいくつか“なくなった”男を、尻の下に敷きながら、景虎は画面を見た。
そして、愕然とした。
《カゲ、この人知ってる?》
《もしかしたら、今回のことに関係あるかも》
《今おれ、乳児院にいてる》
《すぐ帰る、大丈夫》
《ここ出たらでんわする》
庄助からのメッセージとともに、添付されていた写真データには、白髪交じりの初老の男の、遠くからズームで撮影されたであろう横顔が写っていた。
画像は荒く、雨によるノイズが映り込んで不鮮明だ。しかし、魔女のような鷲鼻は忘れもしない。かつて自分の母を堕落させ殺した男、水谷義鷹 の横顔だった。
慌てて折り返し電話をかけたが、庄助は応答しなかった。
「……あのバカ!」
本当にバカすぎて目眩がする。景虎は頭を抱えた。どうしてミズタニの近くにあいつがいるんだ。
一昨日に、ナカバヤシの一件があったばかりだ。甚振られたかつての仲間を見て、さすがに凹んでしばらくは大人しくしていると踏んでいた。なのに。
庄助は、全く想定外のことをしてくる。国枝が言っていた通りの、番狂わせだ。しかも、悪い意味で。腹が立つ。やはり、どこかに閉じ込めておくべきだったのかもしれない。
「どうしたんだい遠藤くん」
突然懊悩しだした景虎に、化野が不思議そうな顔をした。
「……化野さん、あんた銃は得意か?」
「なんだい急に」
「予定が変わった。こいつらはもういい、ブチコチャンを頼む」
言うと、シャツの下のホルスターから銃を抜き、化野に向かって地面を滑らせた。クルクルと回り、割れたガラスを蹴散らしながら、マカロフは化野の大きな膝に当たって止まった。
「予定が変わったってキミね、そんな勝手な」
化野は、拾い上げた銃のスライドを、手元もろくに見ずに引き、チャンバーの中をちらりと確認した。
玄関のドアを、ガンガンと叩く音が聞こえてきた。彼らの仲間が到着したようだ。
「あんたはブチコチャンと窓から出ろ」
「猫と銃を持って、この嵐の中かい? はあ、カタギ遣いが荒いんだから」
言いながら、化野は男の胸部に体重をかけてゆく。呻きながら小さく足をバタつかせ、男は数秒後にあえなく意識を飛ばした。どこがカタギだ、よほど言いたかったが、余計な口を叩く心の余裕は、景虎にはなかった。
「キミは?」
「悠長なことは言ってられなくなった。最短距離で、ミズタニに会いに行く」
揺れるドアを睨みつけ、景虎は言った。キャリーケースの中から、ブチコちゃんがにゃあにゃあ、と不安げに鳴くのが聞こえていた。
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