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第五幕 六、古傷に硝煙①

 赤い轍が続いていた。  リノリウムの床に撒き散らかされて、濡れて、滑る。  随分と遠回りだった。最初からこうしていればよかった。それもこれも、対面するのが怖かったからかもしれない。  会えたらどうしてやろうかとか、言いたかったこととか、そういったものを、何度も考えては手放してきた。  それなのにいざ目の前に立ってみると、言葉は何も出てこなかった。 「大きくなったなあ、本当に」  パルタガスから煙をくゆらせて、ミズタニは鷹揚に微笑んでみせた。昔は葉巻なんて吸っていなかったのに。  重厚な木の扉を蹴破った先、執務室に入るなり向けられた銃口は、右と左からこめかみに触れている。  うんざりしていた。どこまでも暴力が追いかけてくることに。景虎は、引きずっていた職員の首根っこを離し、両手を挙げた。 「庄助はどこだ」  問いかける声が、足元で血反吐を吐く職員の咳にかき消される。 「庄助……早坂さんなら、さっきまで乳児院の方にいたよ。慌てなくて良かったのにな」 「どこにいるんだ」  ミズタニの凹んだ目元が細められた。値踏みするように、景虎の足元から頭のてっぺんまで、湿った視線が舐め回す。 「積もる話もあるだろう。一度座らないか」  ミズタニは、優雅な仕草で応接用のソファを勧めた。 「断ると言ったら?」 「それは……困るよ。僕は景虎と話したいんだ。着席か死か、選んでもらうことになる」  景虎の頭蓋を挟んで向かい合うコルトとベレッタの冷たい唇が、いつでも火を噴ける位置で止まっている。女たちの指はすでに引き金にかかっていた。随分と気が早いものだ。  頭を狙われたまま、革張りのソファに座った。目だけで辺りを見回す。『とりのいえ』。ミズタニが、カサイという偽名で施設長をやっている児童養護施設だ。 「ありがとう。昔から景虎は素直でいい」  人が良さそうな、おおらかそうな笑顔を見せる。外面だけはいい男。ミズタニはそういう人間だ。 「死屍累々、といったところか。うちの兵隊はどうだった? なんとまあ派手に暴れてくれて……はは、本当に立派になったものだ」 「本題に入ってくれないか」 「……やれやれ、そんなにせっかちだったか?」  ミズタニは肩をすくめた。 「十七年ぶりだね、景虎。背が伸びて強くなって……男になった。あんなに細くて折れそうな、美しい子供だったのに。矢野の教育の賜物かな」  手を振って、女たちに銃を下ろさせた。革張りのソファに鮮血が落ち、縫い目に溜まる。景虎の黒い開襟シャツは血塗れだったが、色ゆえに目立たなかった。ここに来るまでに受けた様々な傷が、どくどくと脈打つ。

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