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第五幕 六、古傷に硝煙③

「俺は十七年間、ずっと後悔し続けてきた。母さんを亡くした辛さと付き合ってきた、だから」  雨はもう嫌いじゃない。ただそこにあって肌を濡らすものに、怒りも悲しみも、多くを望みもしない。 「俺は、もう飽きてる。感傷にも、あんたへの恨みも何もかも。あんただけがまだ一人、十七年前のことで盛り上がってる。それが単純にすごい。よく飽きないなと、感心する」  嫌味ではなく、単純な感嘆といった景虎の声音が、ミズタニの顔色を激しく変える。眉を吊り上げ顔を赤くして、再会してから初めて見せる怒りの表情だ。  恐れていたはずのミズタニに会い、老いた彼の言葉を聞いて、景虎はようやく理解した。もう自分は“そこ”に居ないと。 「ふ、ふふっ……そうか、景虎が大人になったことを忘れていたよ。まだまだ小さい子供のつもりだった。そうだ、そうそう……ごめんな。僕の間違いだった」  動揺を押し殺すように、女の一人を手招きで呼ぶ。彼女はベレッタを腰のホルスターに差し込むと、スマホを取り出し操作し始めた。 「だったら、また新しく始めよう。景虎の新しいお気に入りを壊したら……そうすればまたお前は、僕のことを見てくれるかい?」  女がこちらに見せつけたスマホの小さな画面の中。  複数人の男に押さえつけられる、赤みを帯びた金髪が見えた。 「庄助!」  乗り出しかけた頭に、コルトの冷たい銃口が押しつけられる。鋼鉄よりも冷えた怒りが、背筋を、脳幹を駆け上ってくる。 「いいリアクションだ。これは先ほど、僕の“子供たち”から送られてきたものだが……ああ、いい目だ。あの頃が戻ってきたみたいで、嬉しいよ」  景虎は歯噛みした。  画面の中の庄助は、病院着のようなワンピースを着せられて、コンクリートの地面にうつ伏せに押さえつけられている。声は聞こえないが、裸足の足先がジタバタともがくのが見える。 「彼を殺されたくなかったら、矢野を捨てて僕のもとへ来るんだ。そうだ、早坂さんを二人で飼うのはどうだろう? 首輪をつけて、お前が飽きるまで可愛がってもいい」  怒りと貧血で目眩がする。歯を食いしばると、喉の奥で鉄錆の味がした。 「……随分雑だな。庄助に傷をつけずに連れてくるって話は、なんだったんだ?」  半ば強がりで言ったことではあるが、確かに奇妙だった。手下にあれだけ周到に指示を出していたのに、いざ庄助を捕まえたらすぐに殺す算段をするなんて。気まぐれにしてもコストパフォーマンスが悪すぎる。  が、それを聞いたミズタニは怪訝な顔をした。 「傷をつけずに……? 誰に? 何の話だ?」  その瞬間、大きなブザーの音が部屋中に鳴り響いた。と同時に、奥の大きなモニターが何かを映し出す。人影のようだが、近すぎて全貌が見えない。  どうやら、玄関だか裏口だかに設置された、インターフォンを兼ねたカメラマイクからの発信のようだ。 《カサイさん、庄助ちゃ~ん? ここにいるかしら~?》

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