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第五幕 七、死地にありても違えぬものは④
「なァ、男とやんのって気持ちいいの? 相手はあの、遠藤景虎? あいつも変態なん……」
ガーゼごと、カチの鼻が潰れる。何回目になるのかわからない頭突きを、庄助は見舞っていた。
「キモ、死ねよ」
我慢できなかった。昔から後先を考えなさすぎる。考えたところで、怒りが勝つ。そんな自分がコンプレックスだった。
でも、こんな卑怯な人間の口から、景虎の名前が出るのだけは絶対に許せなかった。
再形成されかけた骨にまた大きなダメージを食らい、カチは尻餅をついて顔面を押さえた。
「このクソが……っ! もう……もういい、お前らこっちを押さえろ、アレを食わせてやれ!」
ガーゼを真っ赤に染めて、カチは大声を出した。
「で、でもウーヤさんが、アレはまだ調整中だって……それに、下手したらほんとに……」
狼狽える職員を怒鳴りつけるカチの目は、光をなくして淀みきっている。
「知るかよ。俺はなぁ、このガキを潰すためにここに居ンだよ。そもそも、傷つけるななんてのは、誰が言い出したんだ? 無視だ、ンなもんは。……死んだらメチュのせいにすりゃいい」
メチュの肩が跳ねた。マスクの下で、息がひどく乱れている。
「わ、私は……お父様に、喜んでもらいたいだけ、だから……やめてよ、やめて……お兄ちゃん」
職員たちの身体が離れると、メチュは取り乱したように膝から崩れ落ちた。
顎を掴まれ、無理矢理口を開けさせられた庄助は、身体中が痛むのも構わずに必死に抵抗した。
ここまでボロボロにされて、この上は何を食わされるというのか。開かされた口元に、何かを持った指が近づいてくる。
ウンコか? ウンコ食わされんのか俺は?
それだけはごめんだとばかりにバタバタと暴れる視界に、小さなラムネのようなものを摘む指が見え、庄助は目を見開いた。
薄橙色のそれには、見覚えがあった。先日の会議の際、国枝が透明のパッケージに入れて持っていたもの。フルール・ド・リスの刻印のある錠剤。
「タイガー・リリー……!」
「ああ、やっぱ知ってる? なら話はやいわ。これ、ウチのウーヤが開発してんの。今、改良中でさあ……」
カチの言葉を聞くがはやいか、口元に伸ばされる職員の指に、庄助は全力で噛みついた。錠剤を挟む節ごと喰らいついて、砕く。悲鳴と、骨の折れる感触が歯に触れた瞬間、横腹を思い切り蹴り飛ばされた。
「がぅッ……!」
唇が離れ、今度はうつ伏せに押さえつけられる。鎖の長さいっぱいまで引っ張られた手錠が、食い込んで痛む。口の中に入り込んだ男の血を吐き捨てた。
「痛ェ……! クソがっ!」
「危ねえな、開口器ってあったか?」
職員たちは様々なことを口走りながら、庄助をぐいぐいと地面に押しつける。
冗談じゃない、クスリを飲まされるくらいなら、ウンコを食わされたほうがいくらかマシだ!
庄助は振りほどこうとのたうち回った。消耗しすぎて霞む目に、こちらに向けてスマホを構えるメチュの姿が映った。
「違う、違う、これは……お父様に、私がやったんじゃないって見せないと……だから」
メチュは庄助の視線に気づくと、震える声で言い訳のように呟いた。そんな事をする暇があるなら、そこに落ちている掃除機のノズルで応戦でもしてほしかったが、別に彼女は味方でもなんでもないのだった。
「開口器なんていらねえだろ、めんどくせえ」
カチの声が頭上から振ってくる。腰の上に座り込み、背後から庄助の前髪を掴んだ。
「お兄さんには、なんでも咥え込む穴があんだろ、なあ?」
もともと折れそうだった心に、明確にヒビが入ったのがわかる。頼むからそれだけはやめてくれと、大声で懇願したくなる。
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