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第五幕 七、死地にありても違えぬものは⑤
職員たちに押さえつけられ、下着をずらされる。景虎にしか許していない場所に、絶対に許してはいけない物が押しつけられた。
「や……いやや、っ……! やめろ、やめろ……っ!」
きつく締めて拒むが、大した意味はなかった。尻を左右から割り開かれると、錠剤が粘膜にひたりとくっつくのがわかる。
涙腺が痛い。どんな結果になっても諦めないと決めたけど、クスリだけは嫌だった。景虎が悲しむから。
「カゲ……」
唇が勝手に、恋しい名を呼ぶ。コンクリートにぽたりと涙が垂れて、黒いシミになった。
その時やっと、知覚できた。
地響き。ろんろんと唸る、アイドリングの鼻息が、地面につけた庄助の耳に届いた。
かと思えば次の瞬間、ガシャーンという爆鳴が家屋全体に轟き、建物そのものを揺らした。
「な……っ、なんだ!?」
カチたちは立ち上がって周りを見回した。音は階下、ガレージの方から聞こえたようだった。
地面に顔をつけたまま、庄助が笑ったのを見て、カチは食ってかかる。
「お前、何をしやがった。逃げた男か? それにしては……」
「ハズレや。何回も同じ手に引っかかりやがってアホが……ふへへっ」
防音の監禁部屋にいたから、外から脅威が近づいて来ていることに、カチたちも気づけなかった。
部屋が軋む。奥の壁が震え、叩かれた布団みたいに埃を吐いた。
次の瞬間、ドンと腹に響く音がして、壁に穴が空いた。
「え……!?」
排気ガスと、雨と、濡れた草木の匂い。閉じ込められていたからわからなかったが、外はもうすっかり暗かった。
監禁部屋の壁を壊した鉄の塊が、夜の闇の隙間からぬうっと顔を出し、庄助含めた一同は驚き、悲鳴をあげた。
「うわああっ!?」
それは、真っ黒なショベルカーのバケットだった。雨に濡れた部分に白い粉塵をまとわせて、部屋の壁を蹂躙するように暴れ、壊してゆく。あまりのことに、誰も動けない。
目の前に木の板が落ちてきて、庄助は危うく漏らしかけた。まさか、こんな形で応援が来るとは思っていなかった。
あらかた壊れてしまった壁の向こうを、半ば呆然と見つめる中、背後でドアが開く。
「あら。ここにもいないじゃない。せっかく雨の中来てあげたのに、どうなってんのかしら」
壊れた部屋の入り口に、場違いなほど身なりのいい年配の男が立っていた。
撫でつけた髪に、良さそうな仕立てのサマースーツを着た立ち姿。先日の会議の時に見た彼の顔だ。
庄助は、声を振り絞った。
「音揃 さ……若頭 ッ!」
「ハロー、ひよこちゃん。とってもがんばったのね、えらいわ。あんたのおかげよ、ハナマルあげちゃう」
音揃夢一 はにこやかに笑うと、腰のあたりから真っ黒な拳銃を取り出した。タタン、という軽やかな音が鳴る。
「えっ」
カチは驚いたような声を漏らし、膝をついた。瞬く間に、彼の胸から赤い血が吹きこぼれる。すぐ脇に伏せている庄助の顔や首筋に、生温い液体が飛び散った。
喉が鳴る。命が奪われるあっけなさに、息を忘れる。助かっているはずなのに、庄助は動けないでいた。
壁に空いた穴……もはや穴ではなく、壁の取っ払われた空間から、激しい嵐が吹き込んで、血溜まりをさらってゆく。
首を巡らせて外に目を遣ると、ガレージハウスの周りにいくつも車が停まっているのが見えた。織原組の組員たちが、包囲しているようだった。
「ミズタニはどこ? 僕がわざわざ会いに来たのよ、熱烈に歓迎してくれなきゃ困るわ」
音揃の節くれだった指が、丸みを帯びたトリガーガードの縁を、官能的に撫でている。
別の地獄が始まる予感に、庄助は身を震わせた。
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