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第五幕 九、毒花、蕾みて③

 嵐がまたやってくる前に、景虎は庄助を家に連れて帰った。昨日初めて二人で眠ったあの仮住まいへ、車を走らせた。  ガレージハウスで見つけた庄助は、朝に話した時とはまったくちがった。驚くほどボロボロになって、たったの数時間ですっかり痩せて、小さくなってしまったように見えた。  いつも組が世話になっている病院には、今回のことで怪我をした織原組の人間がたくさん詰めかけている。おそらく、トキタやザイゼンもそこにいるだろう。  景虎や庄助もいくつも怪我をしていたが、現時点では呼吸や脈に異常はないと判断された。重傷者が優先とのことで、比較的軽傷に見える者は、朝を待っての受診になった。  景虎は、自分の怪我のことを忘れてしまうほど、庄助が痛めつけられた事実にはらわたが煮えくり返っていた。  しかし、気持ちをぶつけるべき対象は全員、すでに音揃によって掃討されていたし、ミズタニのことは矢野に任せている。  今できることは待つだけだった。  数年ぶりに会った音揃は、歓迎パーティーを欠席した景虎をひとしきり責めたあと、庄助の働きを手放しで褒めた。若い頃の矢野に似ている、と。それが彼なりの最大級の賛辞だとわかった。  景虎は複雑だった。庄助が認められるほど、彼が闇の世界に相応しい形へ変わってゆく気がした。  血と泥に汚れた病院着を脱がせ、ソファに庄助を横たえ、タオルケットを被せた。電気もつけずに、寝顔を見つめる。窓の外の束の間の星明かりに、きめの細かい肌が青白く浮かぶ。  気持ちの行き場がなかった。  庄助が大役を果たして帰ってきて、安堵こそしているものの、素直に喜ぶにはもう彼は傷つきすぎている。  手錠の外れた手首に、庄助が奮闘した痕跡が残る。めくれた皮の下に、赤黒く乾きかけた血がこびりついているのが愛しくて悲しかった。  血を流すためにシャワーを浴びてから、事の顛末の報告を国枝に送ったが、既読はつかない。向こうも何かと忙しいに違いない。景虎はスマホをテーブルに置き、庄助の頭の脇に腰を下ろし一息ついた。 「……ぅ、うン」  庄助がうっすらとまぶたを開けた。名前を呼んだが、横向きに寝ころんだまま、ぼうっとしている。  今後のことをごちゃごちゃと考えてはいたが、いざ庄助が目覚めると、生きていてくれたことが、こうして小さな声を出して動いていることが、たまらなく嬉しい。  景虎は、庄助の頬に手を伸ばした。ようやく、愛おしい生命に触れられるとばかりに。 「あ、え……カゲ……?」  眠そうにとろりと半分ほど開いた目が、景虎を映す。疲れているのだろうと、景虎は、労る意味で頭を撫でた。  汗や血でごわついた髪、その下の頭皮に景虎の指が触れると、庄助の身体は電撃に打たれたようにビクンと跳ね上がった。 「あひ、あ、あ……っ」  予想外の反応に、景虎は慌てて手を引っ込めた。 「……悪い。痛いところに、触ったか?」  その言葉に庄助は、勢いよく起き上がると、ソファの端に逃げるように身体を寄せた。泣き笑いのような表情になって首を振る。

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