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【番外編】ピエタは毒に沈む【サンプル】

「おじさん、怖い?」  ハザマが立ち上がり、国枝に笑いかけた。眉が太くどちらかといえばバタ臭い、ハンサムな男だった。  彼は笑いながら、マイナスドライバーをバーナーで炙っている。赤熱した先端が、聖堂の薄闇に灯る赤いランプのように揺れた。今思い出すには、悪趣味すぎる記憶だ。 「怖いよ」  嘘はついていない。命が失われるのは初めてのことだ。未知のことは誰だって怖いし、痛めつけられるのは誰だって嫌だろう。  ……蒸し暑い。窓がない。拷問部屋はどこだってそうだ。外に声が漏れるのを嫌って、基本的に密閉されているし、空調もろくに効いていない。 「耳と鼻、どっちがいい?」  ハザマは数歩こちらに歩いてくると、国枝の鼻先にドライバーをちらつかせた。 「……初めてだから、優しくしてほしいなぁ」  諦めたように微笑んだ。いたぶられ死ぬことよりも、残していく業務のことを考えるのが嫌だった。 「へえ。早い人ならもうここで泣き出すもんだけど、おじさんは落ち着いてる」  ハザマは微笑みを返すと、国枝の耳に赤熱した先端を押し付けた。 「……っ!!」  身体が大きく跳ねた。その勢いのまま、椅子ごと横向きに地面に倒れてしまう。椅子に縛り付けられた手首が、おかしな方向に捻れるのがわかった。 「ああごめん。椅子、軽すぎるよね。うちも予算がないからさ……ほんとに嫌になっちゃうよ。どうしようかな」  同感だ。人間の反射の力はものすごいのだから、こういったことをやる際には、ちょっとやそっとじゃ動かない、木製のどっしりした椅子を使うべきだ。  焼けた金属と、髪の焦げる匂いがする。横倒しになった首元に伸びてきたハザマの手は、しゅるりと器用に国枝のネクタイを奪い去っていった。  拘束を解かれているのか、手首に熱と痛みを感じる。黙って見ているビニールシートの地面を蟻が一匹、歩きづらそうに横切っていった。  ハザマは器用に、国枝を今度はネクタイで身体の前に縛り上げた。手の甲が腫れて、燃えるように痛い。いつの間にか骨折していたのかもしれなかった。 「色んなとこ壊す前に、ちょっといい? あんまりグチャグチャだと、萎えるタイプなんだ」  ハザマはそう言うと、国枝のシャツのボタンを外してゆく。 「あ……」  指が肌を這う。ハザマの手はしっとりと汗ばんでいた。 「おじさん、普通のやり方じゃ泣いてくれなさそうだしね」  薄い胸を撫でられた。これから行われるであろう行為そのものよりも、不衛生なのが気に入らない。靴で出入りするような場所、それも床でなんて。汗もかいてるし。ああでも、逆に屈辱的で良くなってくるかもしれない。  探るような手つきに、適度に息を呑んでやりながら、国枝はハザマを見た。目が合う。負傷した上に一纏めにされている腕で、覆いかぶさってくる男の胸を押した。 「いいね、嫌そうな顔、もっと見せてよ」 《続きは本編で!》 ※本作は9/13(日)文学フリーマーケット14にて発売予定の「ぬきさしならへんっ!」短編集『Traces of Days』より、書き下ろし『ピエタは毒に沈む』のサンプルです。 通販などの詳細は原作者ゆめののX https://x.com/nukisashi_nsnで。

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