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5.※暴力

窓も時計もない小さな部屋の中、一体どれぐらい過ぎたかは分からないが、ヒートが終わったのは確かだった 欲しくてたまらない衝動に身体中が熱くて仕方なかったが、それらも治まり、正気に戻った愛賀はヒート中の疲れがどっと押し寄せ、鉛のように重い身体を微塵も動かせず、ただぼんやりと宙を見つめていた。 しかし、それも束の間のことでヒートが終わるのを見計っていた『ご主人様』の「終わったのなら仕事をしろ」という無慈悲な言葉により、気だるさを覚えながらも身を清め、迎える準備をした。 客を誘う甘ったるい香水が満たされる中、不意に思い出すのはぎこちないながらも他愛のない話をする、緊張しているように見える彼の横顔。 彼が情けないヒート中に来ていたのなら謝りたい。そして、不慣れそうに話す彼の何ともない話を聞いていたい。 あの淡々とした口調でも心地よく感じられるから。 ガチャ。 思考を遮る扉の開かれる音がした。 俊我さんだ! ベッドから立ち上がった愛賀はおぼつかないながらも気持ちは軽く、唯一の出入り口に向かった。──のだが。 「俺が来てやったというのに、ヒートが来たようだったな」 睨んできた相手に足が竦む。 何故、誰が来るとも分からないのに俊我だと思ってしまったのだろう。 身体中が鳥肌が立ち、恐怖で滲む愛賀の顔に凄まじい痛みが走った。 その急な勢いに怯み、その場に倒れ込む。 頬にジンジンとした痛みを感じたことによりそれが殴られたのだと理解したのと同時に両手首に重いものを感じた。 涙目になりながらも目線を落とすと、小さく口を開いた。 「あの⋯⋯これは⋯⋯」 前にもこういった客がいたというのに、急なことで目の前のことが処理しきれてなかったようで、つい愚かなことを口にしてしまった。

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