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Like honey はちみつのように6

「何かおかしいと思ったんだよ! 挿入、凄えスムーズだし、周央は感じまくってるしめちゃくちゃエロ可愛いし」  回数重ねてますし? エロ可愛いは関知しない。 「しかも死ぬほど気持ち良い! ぴったり嵌まる感じ、何だあれ、何だあれ!?」  そりゃ結構。お互い慣れたんだな、身体が。 「抜かずに三発もできるとか、俺、どこのAV男優だよ! つか、それってつまり脱童貞のことも忘れてるってことだよな?」  あ、抜かずは自分でも驚いてたんだ。僕もびっくりだった。それ、実はもう何回もやってるんだ。  僕はようやく口を開いた。 「良いじゃん、忘れたままで。僕とのことなんて、ノーカンで構わない」 「おいおいちょい待て、その言い方、自己完結過ぎ! しかも若干ビッチ入ってんぞ」 「しょうがないだろ……」  他に言いようがない。 「嫌だ、消すなんて」  当麻は僕に詰め寄る。 「嫌われてないって分かったのに! やっと、やっと周央の気持ちが知れたのに」  知れても何の意味も無いことなんだよ、当麻。  そうして、僕は繰り返し責められる。 「何で記憶を消す?」 「何回お前とヤってるんだ?」  僕は右手を当麻の額に翳し、詠い始める。涙が零れ落ちる。  僕の涙を拭おうと手を伸ばした当麻は、手が僕の頬に届く前に、魔法の効果で眠りにつく。腕が力を無くし、ぱたりと落ちる。  何の涙なのか、自分でも分からなかった。  ぼろぼろと零れるのを放置して、僕は眠る当麻の髪を指で梳く。  身体が慣れた、イコール身体が憶えている、ということだろうか。身体は記憶するのか、それとも、別の何処かが憶えているのか。  当麻は、セックスした記憶を毎回消され、上書きされている。当然、以前のことは全く憶えていないように話す。  なのに、毎回匂いは必ず嗅いでくるし、同じようなキスをしてくるし、先走りは凄いし、幾度も出される。  まるで憶えているかのような当麻の行動に、身体の反応に翻弄される。  恥ずかしさと罪悪感で逃げ回っていたら、クラスの女の子達と仲良く話したりして。  やめろ、触るな、それは僕の当麻だ。あんた達より絶対、絶対深く繋がってるんだから!  セックスしてるんだぞ!  叫びたい、けどできるわけがない。  いつか当麻が選ぶだろう正しい未来がそこにある。壊せない。  何度も、当麻は僕を抱いてくれる。優しい当麻は、同性の僕を受け入れてくれる。  時折、僕がやったことを全部気づいて、知ってくれているのではないか、本当に心も身体も全て繋がったのではないかと勘違いしたくなる。  でも、最後には責められるのだ。  僕は沈黙する。だってこれは僕の我儘だ。当麻は、当麻のいるべき世界へ戻さなくてはいけない。全て忘れて、女性を愛し家庭を持つ。普通の幸せを享受する。  そこに、僕はいない。  だから、責められることを受け止めるし、必ず当麻の記憶を消す。  魔法の連続使用が、魔法陣を維持管理する時間が、僕の精神力と体力を削っていく。  そんな中で、僕の心はいろんな感情に翻弄され、混乱する。  僕は、本物のバカだ。全部、自業自得。  毎週土曜夜の、カヴン『森と結界の守護者』の定期集会。儀式前の詠いが終わる。  白いローブを纏った、男性のみ、僕を入れて七人のメンバー。今日は、胡座をかいた状態での儀式だ。  次の儀式へ集中したまま移行する為に、私語は無い。  プリーストである恭一郎さんが、準備していた魔法陣のひとつにナイフを使って線を書き加え、円環を閉じる。 「続けて今日は、愛の詠いを」  んー、とみんながそれぞれにハミングし、身を揺らす。先に詩を(そら)んじ始めたのは、日下さんだ。愛の詠いは、日下さんが中心となって詠う。 「我ら大地の女神に従う守護者、結界の担い手  全てのものに愛は宿り、全てのものは愛で成り立つ  かつてひとつであった女神は  世界を増殖させるため、その身から男神を分け放った」  魔法陣が、七色に光り揺らめき始める。 「分かたれた魂は女神に惹かれ  女神を求める  元はひとつであればこそ  その引力は強く、抗い難し」  僕は何故か、当麻を思い起こしてしまった。まずい、集中が途切れる。 「女神の、滑らかで豊穣な肌は魅力的」 『魅力的っつーか』  当麻の声がする。 「我らを見つけ出す鼻は尊く」 『尊いって言葉が似合う感じ』  ダメだ、よせ、周央直。 「輝ける瞳は繊細で綺麗」 『周央、綺麗だ』  鼓動が激しくなる。 「良い知らせを受ける耳は可愛らしく」 『す、おう……かわ、いい』  っは、という吐息まで再生され、全身が、ぎゅっと締めつけられる。当麻の腕の中の感触だ。 「調べを奏でる喉は大胆で美しい」 『こんなに美人で』  身体が震え出し、全身から汗が滲む。抑えようとして、両腕で自分を抱き締めるが、止まらない。 「分かたれた魂は女神に惹かれ  女神を求める  元はひとつであればこそ  その引力は強く、抗い難し  愛しき女神を男神は求めん」 『愛しい』  聞いていないはずの言葉が、耳を打つ。何故。  違う、これは僕だ、僕の声だ。愛しい。  熱がどんどん高まって、胸の中を支配していく。 「愛とはすなわち結合、精神と肉体の交歓で成就されん」  愛が結合。  魔力が、とうに治っていたはずの快楽の痕をなぞり始めた。あっという間に、身体中を駆け巡る。  ああ、当麻、当麻が僕の中にいる、残っている。 「女神と男神はひとつとなり、全き円環を成す」  ぶわっ、と胸の中から、熱いものが溢れ出した。 「おい!」 「待て、誰だ?」 「魔力過剰だ! 均衡を保てていない」 「陣が崩壊します!」 「直だ。こら直、暴走してるぞ! コントロールしなさい!」  僕は立ち上がっていた。何を、僕はいま何をした?  必死に魔力を抑える。幸い、すぐに通常の量に戻せた。 「詠いは?」 「日下が続けています、プリースト」 「よし、ではこのまま」 「……陣を出ます。すみません、具合が悪くて」 「直っ……駄目だ、中止だ!」  僕はなりふり構わず陣を出て、部屋に走り帰った。儀式後の会食にも出ず、毛布を被って引き籠る。  当麻、ああ、当麻。僕はもうめちゃくちゃで、ぼろぼろだ。なのに最後に残るのは。  溢れ出しそうな何か。溢れ出したら、もうそれに浸るしかなくなるくらい、大量の。言葉に表せば、きっとたったの一文字。  愛。  もう、嫌だ。

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