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Like honey はちみつのように7
全裸で、液体にまみれた周央が、膝立ちの状態で、煌めく白い光を操る。
羞恥で赤く色づく身体、困ったように寄せられる眉、少し涙を浮かべる瞳。
厚く紅色がかった唇が、とても綺麗な旋律を紡ぎ始める。
俺はそんな周央の姿を、陶然と眺める。胸を高鳴らせ、そして欲情する。
欲しい、欲しい。
食べたい、舐めたい、突っ込んで、喘がせて。もっと真っ赤に染めたい。俺の手で、指でどろどろに蕩けさせたい。
俺だけの周央にして。
溶け合って、ひとつになる。
どうしてそんな夢を見るのか。目を開けて、仰向けの姿勢のまま考える。
随分と過激だが、俺の気持ちが、ああいう直接的というか、肉体的なものとして表れたのだろう。
何処か遠くに行ってしまいそうな周央を、繋ぎ止めたい。
守りたい、傍にいたい。その綺麗で可愛い顔を、ずっとずっと眺めていたい。笑っていて欲しい、できれば、俺が笑わせたい。
大事にしたい。俺が、俺だけが。
委員長の“嫉妬”の言葉が、やっと結びついた。
俺は、周央が好きだ。
友達が好き、とは絶対に違う。
俺は、周央に欲情する。ヤれるもんなら、ヤりたい。
そうだ、俺は周央を性欲の対象として見ている。男がどうとかは関係無い。
ぼんやりとして表現し辛かった自分の気持ちが、はっきりと自覚できた。
パンツをぬるぬるのぐしょぐしょに濡らしながらだが。
あーあ、俺、キモいな。
「悟りでも開いたような表情してんな、当麻」
周央が体調不良で不在の、休み時間。俺は委員長と斉藤が話しているところに乗り込んだ。
「あー、色々すっきりして」
「えっ、まさか抜いて……」
「こらこら委員長、朝っぱらからそういうこと口にしちゃ駄目だろ」
「まあ、そんなとこだな!」
否定せずに笑顔を返すと、斉藤はええええ、とドン引きし、委員長はずい、と距離を詰めてきた。
「どうしたらいいか、考えてる?」
「うーん、どれが正解、とかはまだ見えてないけど」
がらり、と音を立てて教室の戸が開く。
姿勢の良い、ちょっと青白いきめ細かな肌、ふわふわの色素の薄い短い髪。くっきりとした二重まぶたと長いまつ毛に縁取られた、潤んだ双眸。最初に見かけた時から変わらず、いや、もっと美人になっている。
目が合った。
「おはよう、周央」
「……ぉはよう」
周央は、頬を真っ赤に染める。やっぱ可愛い。
俺がにっこりと笑いかけると、周央は顔を伏せて、席へと移動して行った。
「俺がしたい、すべきことなら見えてるよ」
「よし、頑張れ」
「応援してるわ」
ふたりが、それぞれ俺の肩と頭にぽん、と手を置いた。
俺がいままで自分の気持ちに気づかなかったのは、俺が他の誰よりも、周央の傍にいる、と思わせてもらえていたからだ。
独占していると思い込み、俺のものだと勘違いした。何の約束もしていないし、何の言葉も交わしていないのに。
だから言わなくてはならない。言葉にしなくては、伝わらない。
そして、どうして距離を置こうとするのかを聞かなくては。
何処にも行かせたくないし、傍にいて欲しいから。
今日は金曜日、掃除当番の日だ。
「ようこそ、愛し合うふたりのオアシスへ!」
猫頭の執事が迎える、体育館裏の何の変哲もない倉庫、だったはずの別の部屋。どうしてだろう、初めて見るはずなのに、既視感がある。
さっきまでの、確固たる意思を持っていた自分の足下が揺らぐ。何だこれは。
「俺は、俺達は」
違和感に、言葉を切る。
「体育委員の……」
『体育委員の当番で、この倉庫の点検と掃除をしに来ただけで』
頭に再生されるのは、自分の声だ。
「お客様? お客様、いかがなさいました?」
「うっせー、何かあとちょっとで掴めそうなんだよ黙ってろ」
執事の後ろに見えるのは、でかいベッド、奥にガラス張りの浴室、まるでラブホのような設えだ。更に中の様子を見る為に、拳でぐいと執事の胸を押す。
あれ、これもやった気がする。何だっけ? 確か、俺と周央が、
「……周央?」
振り向くと、周央がぽろぽろ涙を零して立ち尽くしていた。
「何で」
『何で泣くんだ、周央?』
「泣くなよ。手、伸ばしてもいつも届かないんだから」
俺は、周央の頬に手を伸ばす。よし今日は届いた。
ん? 今日は、って何だ?
まあ良い。届いたならば、やりたかったことがやれる。
自分の身に周央をぴったりと抱き寄せて、首筋に唇を当て深呼吸。
「んんんっ」
周央の身体がぴくりと揺れる。
ああ、やっぱり甘い匂い。美味しそうな、蜂蜜の匂いがする。
周央の顔を見る。指で溢れる涙を拭き、更に溢れてくる涙を、口で吸い取る。それが終わると、厚く柔らかい唇へ。開かれる瞬間を待ちながら舐め続ける。
「んぁっ」
開いた。
俺は拒絶する隙を与えまいと、猛然と舌を侵入させる。周央の頬と首筋に、手を|宛《あて》がう。
「ふっ、んぅ」
泣いていたせいだろうか、周央は、鼻にかかった甘ったるい喘ぎ声を出す。
派手に水音を立てながら、甘さの源泉を探る。
弱々しく絡んでくる周央の舌に応えながらも、唇と歯の間、頬の内側、上顎の裏側に、自分の舌を這わせる。
そうだよ、同じことしたはずなんだ。だって知っている、甘いのは周央の唾液でその甘さは、
『と、うまぁっ』
耳に響く、俺の名を呼ぶ切なげな、悦びを含んだ声。
唾液は、快感を与えるともっとどろりとして、甘さが増すんだ。
暴いて、突っ込んで、繋がりたい。狂いそうだ。
周央、直。
色素の薄い柔らかな髪、ぽってりとした弾力のある唇、すらりと伸びる手足、俺が与える言葉や快感で赤く染まる、滑らかで美味しい色白の肌。
『目の前でそんなことしてたら、当麻が、萎えるんじゃないかと思ったから』
『僕とのセックス、今日で、二回目』
『体力、バカ』
『死んじゃう』
『やっ、とう、まっ』
『奇跡、みたいな、もんだから』
身体を濡らしながら、詩を|口遊《くちずさ》む周央。
『僕、魔女なんだ』
夢じゃない、俺はあの光景を、本当に見た……
「思い出したぞ、周央!」
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