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番外編 Before I use witchcraft 魔法発動前 中編

 ベッドでうとうとしていると、ドアの向こうから当麻達の声が聞こえてきた。  僕は布団を頭から被り、寝たふりを決め込む。  ぼふん、と誰かが腰掛けた衝撃で、僕のベッドが揺れる。斉藤と当麻を含む複数の声の主達は、そのままこの部屋に残って、話を続けるつもりらしい。  きっとまた、女の子の話とかするんだろうな。温泉の中でも、そういう系統の話、してたんだろうし。去年同じクラスで、一緒に勉強会をしていた福井は、暇さえあれば彼女が欲しいだの、女の子がどうの、こうのと話していた。  同世代の男の興味は、たぶんその辺りにあるのだろう。  ああ、やだなぁ。夕食前の、去年同じクラスだった女の子達のことをまた思い出してしまった。ご飯時も、考え過ぎて食欲失くしちゃったのに。  はたからみていると状況が丸見えだ。斉藤をダシにして話しかけてるけど、あの子、本当は後ろの子が当麻と話せる機会を作りに来てる。斉藤は、去年から一貫して、あの子に興味が無い、って態度をあからさまに出していて、あの子もいつからか、斉藤だけに話しかけるのを止めてしまった。もう、斉藤のことは諦めているはずだ。  その点、当麻は特定の誰か、ってのも無いし、斉藤とのことを協力してあげたい、っていう態度を崩していない。その状況を、彼女達は当麻自身に近づくことに利用しているというわけだ。正直、凄く羨ましい。  後ろの子、頬を染めて当麻のことを見ていた。当麻は、僕から見ても優しくて格好良くて頼もしい。女の子からなら、もっともっと魅力的に見えるのではないだろうか。好きになってしまう気持ちは、とても理解できる。  当麻があの子の気持ちに気づいて、ふたりがくっついてしまう前に、計画を実行しなければ。準備はほぼ整っている。座敷でも、体育館裏の倉庫のことが噂になっていた。思惑通りだ。続けるのが難しいと理解した上で、苦手な理系を選んで当麻と同じクラスになった。自分から誘って、同じ体育委員にもなった。後は、魔法陣の微調整。そして、当麻と倉庫へふたりっきりで行く、決定的な理由を作る。  でも、本当だったら。  当麻は僕じゃなくて、ああいう女の子の方が絶対…… 「周央、起きてる? 一緒に将棋見ようぜ。三上が折り畳み式の将棋盤持ってきてて、斉藤と対戦してんだけど、結構面白いぞ」  僕が心底大好きな優しく低い声が、布団の外から、僕の耳のすぐ側で響く。  思わずうっ、と声を出しそうになった。わあ、近い! ていうか、僕のベッドに腰掛けてるの、当麻だったのか!  顔がかっ、と熱くなる。布団を被っておいて本当に良かった、いまの顔は絶対、見られたくない。 「脱衣所でさ、誰が将棋強いかって話になって、三上と斉藤がどっちも引かなくて。ガチで勝負しようって話になったんだ。将棋、横で見るのとかあんましたこと無いけど、結構面白い……」 「おーい、集まって何してんだ。誰かここ開けろ」  こんこん、と扉を叩く音と共に、末田先生の声がした。誰かが小走りで扉に向かう。 「そろそろ消灯時間だ。はよ自分の部屋に戻れ、そして大人しく寝ろ。先生達も休ませてくれ」  はーい、という緩い返事と共に、がさがさと片付けたり、移動する音がする。  おやすみ、じゃーな、また明日ー、と挨拶が交わされ、扉が閉まる。がこん、とドアガードのバーが立てられる音も聞こえた。  何か、おかしい気がする。  僕は、自分のベッドの状態がずっと気になっていた。当麻が座っていた場所が、全然動いていないような。 「……斉藤、何すんだよ」  ああ、やっぱり当麻だ、当麻が残ってる! 「何って?」 「いや、何で皆と一緒に俺を帰さなかった? 末田先生が廊下にいたら、出辛いだろ」  うん、と斉藤が返事をし、部屋を歩き回る気配がした。 「……お前と同じ部屋の長峰、さっきいなかっただろ?」 「ん? ああ、それが?」 「彼女連れ込みたいって言ってたんだ、脱衣所で。それで、邪魔しちゃ悪いかと思って、お前を引き留めた」 「はっ1? あ、あれ、長峰? 長峰って、あの眼鏡かけていかにも勉強命って感じの、長峰だよな、か、彼女!? 連れ込みたい!?」 「あ、すまん、違う。同じ部屋に人がいると、上手く寝られないからお前に帰って来て欲しくない、つってたんだ」 「おいぃ、どっちだよ!?」 「しっ、声がでかい! 見つかるぞ、落ち着けよ」  落ち着けるわけがない。彼女を連れ込みたいのか、ひとりじゃないと眠れないのか、どっちなんだ!  だからさ、と斉藤は落ち着いた感じで続けた。 「頃合い見計らって起こしてやるから、周央と一緒に寝ろよ」  周央と一緒に、寝ろよ? 一緒に、寝ろ? あれ、日本語が分からない、どういうことだろう。 「……あ! あーあ、なるほど!」  長い沈黙から一転、当麻が嬉しそうな声を上げた。  な、なるほど?  「斉藤、ありがとう!」  ありがとう!? 僕は驚愕した。何故お礼?  い、いや、いやちょっと待って! どこからどうしたら一緒に寝ることになるのだろうか? 男同士だったら、おかしくないってことかな!? 普通かな? え、ほんとに!?  ううう、友達付き合いの経験が乏しい僕にとって、友達付き合いの普通レベルの見当がつかない。 「周央も、別に構わないんだろ? 全然否定してねえし」  ひえ、違う違う、あまりの展開に声が出ないだけだ、黙ってたら肯定って、横暴だろ! 「んじゃ、おやすみ」 「へいへい、おやすみ」  背中の方の布団が大きくめくられる感覚がして、僕は慌てて壁側に身体を移動させた。これでかなり距離を開けられるはず。  てか、あ、うわあ、ほんとに入ってきちゃった! 僕、結局返事してないのだけれど!?  電気消すぞー、という斉藤の声がして、拒否するタイミングを完全に逸してしまった。

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