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第2話 助けてやろうと思ったのに
幸い傷が深くてそれ以上は動けなかったのか、怖い顔でグルグルと唸るだけで飛びかかってくる様子はない。
その事にとりあえずは安堵する。
きっとケガして気が立ってるんだ。刺激しないようにこの場を去ろう。
そう思ったのに、立ち上がろうとすると力が抜けてペタンと尻餅をついてしまう。……なんてこった。
最悪だ。あまりの迫力に腰が抜けたらしい。
切ない。
若干涙目で恨み言を言う。
「なんだよもう、助けてやろうと思ったのに……」
「わう……!?」
「びっくりし過ぎてポーションも投げちゃったし……」
ほんと最悪。
居た場所が水際だったもんだから尻餅をついた拍子にかなり泥だらけになったし、ポーションもちょっと遠い泥の中に半分埋まった感じで刺さってる。
腰が抜けて立てないから、真っ黒ワンコを刺激しないようにゆっくりと四つん這いでポーション回収に向かう。もうヌプヌプの泥まみれだ。
全身気持ち悪い思いをして、腰が抜けるレベルで怖い思いをして、さっきまで感じてた心地よさなんて皆無になってしまった。
もう帰ろう……。
でも背を向けた途端に飛びかかってこられたら確実に死ぬから、真っ黒ワンコから視線を外さないまま後ろへと後ずさる。
つーか泥の中で四つん這いで後ずさるの、難しすぎない?
「っ! わふっ……?」
僕と目が合ったままの真っ黒ワンコが、急に驚いたみたいな声をあげる。僕との距離が離れた事に気が付いたんだろう。
「心配しなくても近づいたりしないよ。もう帰る」
言った途端。
「きゅ、キューン! キューン……!」
ぴくっと反応した真っ黒ワンコは、焦ったように切ない声を上げ始めた。
「え」
「く、くぅん、キューン」
さっきとは打って変わった態度に、僕は言葉もなく真っ黒ワンコを凝視する。
「くぅん、くぅん、キューン」
「……」
「ぴすぴす、キューン」
「もしかして、僕に帰らないで欲しいの?」
「わふっ」
明らかな返事に、思わず笑った。
人間と一緒に生活してるワンコは人間の言葉を理解してるって聞いたことあるけど、本当なんだな。きっと僕が、助けてやろうと思ったのに、って言ったのを理解したんだろう。
こんなこれ見よがしにこっちが罪悪感を抱くような悲しげな声を上げた上に、しっぽをパタリと振ってみたりするんて、なかなか頭がいい。
「お前、やっぱり飼い犬だったことあるんだろ。現金だなぁ」
「わふ……」
「傷を治してやるから、近づいても怒るなよ?」
「わふっ!」
目がキラッと煌めいた。本当に現金だ。
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