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第7話 またお前か
「そうかなぁ」
どっちかっていうとナメられてる気がするけど。
それでもアンドルーさんに頭をポンポンと優しく撫でられると、アンドルーさんがそう言うならそうなのかもなって気持ちになってくる。
僕は親の顔も知らないから、アンドルーさんと話してるとお父さんってこんな感じなのかなぁって思ったりするんだ。
「ま、その『真っ黒ワンコ』の事で分かった事があったら教えてくれ」
「はいっ!」
「気を付けて帰れよ」
「ですよね……」
アンドルーさんの言葉に身が引き締まる。そうだよね、とりあえずはこの大金を無事に家に持って帰らなければ。
バッグをしっかり抱いた僕は、アンドルーさんと別れて市場に入る。
今日はちょっと屋台で豪華に色々買っちゃおうかなぁ、ってウキウキと屋台に近づく。美味しい匂いに鼻腔がくすぐられて、どれを買おうかなぁ……って幸せな気分になった。
「わう」
「……」
またお前か。
いやでもちょうどいいっちゃちょうどいい。
「真っ黒ワンコ、お前のおかげで信じられないくらい報酬貰ったから、なんでも好きなもん買ってやるよ。すっげぇいい肉でも食う?」
「わふっ!!!」
しっぽめっちゃ振ってる。腹減ってたのかなぁ。まぁ、あんだけ戦ったあとだもんな。
そう思って真っ黒ワンコのご要望にお応えして巨大な塊肉を買ってやったのに、生肉をその辺で食わせてやろうとしたらすごい勢いで吠えられたあげくに拗ねた様子で丸まってそっぽを向かれてしまった。
「いらねーのかよ」
どうしたらいいのか分からない。
「しょーがないなぁ、暗くなってきたし、帰るか……」
ワンコ好きではあるものの飼った事なんてない僕に、真っ黒ワンコの気持ちが分かる筈もない。今日は怖い思いもしたし泥だらけになったし、とにかく疲れた。早く家に帰って美味いもん食って、お風呂にゆっくりとつかってから泥のように眠りたい。
「ここに置いとくから、気が向いたら食えよ」
真っ黒ワンコの横に生肉を袋ごと置いてから踵を返す。家路を急いでいたら、後ろからカサカサという音が聞こえてきた。
振り返ると、真っ黒ワンコ。
口にはしっかりとでっかい生肉が入った袋が咥えられている。
「え……ついてくるの?」
どこまで? まさか家まで?
「おい! ついてきたって僕、飼えないからな!?」
焦ってそうはっきり言ったのに、真っ黒ワンコはツーンとそっぽを向いている。
ちょっと待って、ウソだろ!?
諦めて貰おうとしばらく動かずにいたり撒こうとしてみたり追い立ててみたりしたけど、真っ黒ワンコの方が二枚も三枚も上手だった。
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