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第16話 【ディエゴ視点】一緒に居ると心地いい
沸き起こってきた自分の感情にちょっとびっくりした。
獣人の親離れは早い。人間だったらまだ『学校』とやらに行っているような年でも普通に独り立ちして身を立てる。俺も例にもれず十二の年を数えたくらいで家を出て、それから十四、五年というもの一人で身を立てて生きてきた。
その間、一人が寂しいとか、誰かと一緒にいたいなんて思った事なんてなかった。
パーティーに誘われた事も何度だってあるが、それでもソロを貫いてきたのは、単純に他人と一緒にいるのが面倒だからだ。
ソロは気楽で、稼ぎもいいしなんだって自分がしたいようにできる。誰かに気を遣う必要なんてものもない。最高に俺に合ってる、そう思ってた。
なのになぜ、この優男ラスクとは一緒に居たいと思うのか。
「ご主人様、死んじゃったのか……? 寂しいよなぁ」
そんな風に優しく呟いた後は、何も言わずにただひたすらに俺の体を優しく撫でてくれるラスク。俺が特に反応を示さなくても、その手はゆったりと俺の体の上を滑っていく。
他人にこんな風に撫でられる事なんてなかった。
あったかい手でゆっくりと撫でて貰える事がこんなに気持ちいいなんて知らなくて、いつしかもうちょっとだけこの優しい手で撫でて欲しい、なんて考える。
床に寝そべる俺に合わせるように、俺の横に座っていたラスクの太ももにそっと顎を乗せてみたら、ラスクは俺の耳の付け根を揉むように撫で始める。
まさか耳なんて敏感な場所を撫でられて、気持ちいい、なんて思う日が来ようとは。
暖炉の前でふかふかとあったかい絨毯の上、しかも人肌に寄り添って撫でられていると、次第に体中の力が抜けて、ウトウトと眠くなってくる。
気を抜いたら寝落ちしそうだ……と思った時、ラスクが小さな声でしゃべり始めた。
「なぁ真っ黒ワンコ、お前はどんな町や森を冒険してきたの?」
今度は腹の辺りを撫でながら、囁くようにそんな事を言う。
「僕さぁ、いつかエリクサーを作れるような、そんな薬師になりたいんだよね……」
思わず見上げたら、空色の瞳と目が合った。照れくさそうに笑うのが可愛い。
「可笑しいだろ? 夢みたいな事だからさ、あんまり人に言った事ないんだけど」
確かに。エリクサーって確か、伝説の万能薬の事だよな。
効能の説がありすぎて結局どんな効果があるのか分からんっていう摩訶不思議な印象だ。すべての病を治せるとか、状態異常も体力・気力も全回復するとか、死人も生き返るとか、不老不死になれるとか。
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