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第17話 【ディエゴ視点】ラスクの夢
そもそも誰もそのエリクサーなる薬を見た事がないんだから、何が本当か分からない。まさに伝説って感じだが。
「僕の親ね、流行り病で死んだんだ。日に日に衰弱していって……本当に酷いもんだった。父さんが死んで、母さんもいよいよ息を引き取った時にさ、エリクサーがあればってどれだけ泣いたか知れないよ」
この、のほほんとした様子の男にそんな悲しい過去があったとは。
なんで急に俺なんかにそんな話をしだしたのかは分からない。
だが、ぼそぼそと呟くラスクがあまりにも悲しそうな眼をしてたから、つい伸びあがって鼻先でラスクの顎をちょんとつついてやった。
「はは、慰めてくれるの? お前意外と優しいな」
ラスクがちょっと笑ったから、俺も少しだけホッとする。
慰めようとしたのかは自分でも分からない。ただ、ラスクが悲しい顔をしているのが悲しくて、気が付いたら触れたくなっていた。
人族というのは、他の種族に比べて体が弱い。
肉体的にも貧弱で脆弱だが、病にも弱く寿命も短い。ラスクが語った内容は充分にあり得る話だった。この男もきっと俺に比べたら脆くて弱い。
ラスクがあっさり死んでしまって、もう二度と撫でて貰えなくなるのは嫌だな……とふと思った。
だが、死にやすい種族だからこそなのか、人族は生にとても貪欲だ。本当にエリクサーみたいな薬を作りだすのは、人族なのかも知れない、とも思う。
「今さらエリクサーを作ったって親が戻ってくるなんて思ってないけどさ、でも、今病で苦しんでる人を救うことはできると思うから」
穏やかな声でそんな事を言うラスクの目はとても優しいけれど、意外なほど真剣で、コイツが本気で言っていることだけは理解できた。
「もちろんエリクサーなんて伝説だからさ、レシピを探すところからだし道のりは遠いんだけど」
やっぱり薬師から見ても伝説なのか。そりゃあ遠い道のりだろう。俺にはエリクサーが本当はどんな薬なのかは分からないが、いつかラスクが作り出せればいいのに。
「多分レシピを探すのも大変だし、使う素材もここにいるだけじゃ手に入らないと思うんだ。だからいつか世界中を旅してレシピや素材を手に入れようと思って、僕でもできるような魔術を覚えたり体を鍛えたりしてるんだけどさぁ」
びっくりしてラスクの顔を二度見した。
体を鍛えてる……!? これで!? 筋肉があるようには見えなかったぞ!?
あ、でも拘束魔術は見事だったから、鍛錬してるのは確かなんだろう。本職の薬の勉強もあるだろうに、ご苦労な事だ。
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