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第43話 この場を治める事の方が優先だ
さっきは確かに結界を解いて貰おうと思ったけど、人だかりに近づいてハッキリ分かった。この混乱と熱気、みんなすごく興奮してる。この人数が恐慌状態になるのだけは避けたい。
早くもざわつき始めてるし。
「皆が不安だと思うから、やっぱり解かなくていい。話が終わるまでこのままの方がいいかも」
「分かった」
僕とディエゴのやりとりを眺めていたアンドルーさんは、興味深げな顔で聞いてきた。
「そいつ、もしかして『真っ黒ワンコ』か?」
「はい」
やっぱりアンドルーさんは分かるんだ。すごい。
「あのドラゴンは、彼が仕留めてきた獲物でして……実はAランクの冒険者らしいです」
「だろうな。とりあえずちょっと待ってろ。こんなにうじゃうじゃ人がいたら、ゆっくり話もできねぇからな」
そう言ったアンドルーさんはクルリと後ろを向いて、人だかりの方へと声を張り上げる。
「皆さん! あのドラゴンはもう死んでるんで大丈夫ですよー! ラスクの友人のAランク冒険者が狩った獲物だそうです」
アンドルーさんの言葉に人だかりからは安堵と感心したようなため息が聞こえてきた。ついでざわざわと人々の会話が聞こえてくる。
「Aランク? 初めて見た」
「あんなでっかいドラゴン倒せるヤツなんているのかよ」
「あの耳としっぽ、獣人よね?」
「すごいイケメン……」
「ね、カッコイイよね!」
僕にこれくらい聞き取れるんだから、ディエゴにはもっとたくさんの声が聞こえているんだろう。
ちょっと得意そうな顔になってきた。
アンドルーさんはそんなディエゴを面白そうに眺めながら、興味津々に聞いてきた。
「人を特定して結界張れるなんて、相当な手練れだと思ってたよ。ちなみに御友人の名前を聞いてもいいかな?」
「ディエゴです」
「友人じゃなくて恋人になる予定だ」
僕の言葉にかぶせるようにディエゴが要らない事を言う。
吹き出すアンドルーさんの後ろで、キャアとかアラアラとかいいぞー! とかいう野次やら色々聞こえてきて死ぬほど恥ずかしい。ヤクルさんも目をまん丸にして驚いてるし。
「恋人になるかは分かんないですけど! ……でもしばらく同居することにはなるから」
ヒュウ♪ と口笛を吹くアンドルーさんの横で、ヤクルさんがさらに心配そうな顔をする。
「えっ! ちょ、ラスク、大丈夫なのかい!?」
「はぁ……実はあの真っ黒ワンコ、コイツだったんですよ……あとで詳しい事情は説明します」
「ええ!?」
ヤクルさんが心配するのはもっともだ、けれどとりあえずはこの場を治める事の方が優先だ。
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