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16.すれ違う君と僕

 永良(ながら)は勢いよく立ち上がると、僕の胸にメダルを押し付けてきた。  ネクタイとYシャツに、プールの水が浸み込んでいく。 「~~っ!!!! テメェ!!! 厳巳(いずみ)っ!!!!!!!!!! よりにもよって、このメダルを……って、どのメダルでもダメだけど!!! これはもっとダメだろ!!!」  叱ってくる。。  取り戻そうとしているんだ。  。 「何で今になって――」 「だって、そう言ったはずだよ」 「っ!」 「ねえ、どうしていなくなっちゃったの?」 「それは……っ」 「分かってるよ。ギラギラな僕を取り戻したから、『もういいや』って思ったんでしょ?」 「…………………」 「バカだね」  僕は結果的にギラギラな自分を取り戻した。  でもそれは、君と一緒にいたかったから。  君と馴れ合いたかったからだ。  だから、永良がいなきゃ意味がない。  君がいなければ、僕は元に戻ってしまうんだよ。  に。 「……ほんとバカ」  声が震えた。不覚だ。小さく咳払いをして調子を整える。 「……っ」  永良の眉間に深いしわが寄る。困惑しているんだろう。 「分からないんだろうね。君には一生」  まるで理解していないから。  僕にとって君がどれほど大切な存在であるのかを。かけがえのない存在であるのかを。 「……それはお互い様だろ」 「は? 何言って――」 「あれれ~? 誰かと思えば、厳巳君じゃないの!」  男の人が話しかけてきた。  ガッチリとした胸筋に細い腰。まさにボディビルダーといった具合の体型の人だ。ぱっと見30代前半ぐらいか。  この人もまた糸目で優し気な目元をしていた。 「悟行(さとゆき)のか? 悪いがそれは呑めないぞ。こちとら死に物狂いで口説き続けて、よーやく手に入れたんだからな」  ああ、この人は知っているんだ。永良と僕の関係を。  永良から直接聞いたのかな? あるいは自分で調べたのか。  何にせよ分が悪いことに変わりはない。  この人から見たら僕はただの駄々っ子。話しを聞くだけ無駄な人、なんだろうから。  よし。慎重に言葉を選ぶんだ。気を引き締めてその人と向き直る。 「そこまでして永良に執着した理由は何ですか?」 「脚力、身軽さ、それに体幹だな。俺の見立てじゃ、『100年に1人の逸材』だ」 「凄いですね」 「そうよ。そんな子をどっかの誰かさんがきつ~く、きつ~く縛り付けてくれちゃってさぁ~」 「……すみませんでした」  ぐうの音も出ない。その通りであるから。僕は身勝手な理由で永良の才能を潰そうとしたんだ。 「あっ、あの! ちょっといいですか?」 「永良……?」  そう。待ったをかけたのは永良だった。戸惑う皆を他所に永良は続ける。

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