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04.主人公

「嘘……」 その少年は見事メダルをキャッチしてみせた。 しかも、ジャンピングキャッチで。 あれはたぶん……1メートル近くジャンプしてたよね? 凄い。アニメみたいだ。 感動のあまり思わず拍手してしまう。 この子は一体何者なんだろう? とりあえず『スイマー』であることは間違いなさそうだ。 上下黒のジャージのバックには、『MURAYAMA Swimming School』と書かれているから。 でも、それ以上の情報は見て取れない。 当該スクールに知り合いはいないから、たぶん初対面だとは思うんだけど。 「はぁ……はぁ……げふっ……がぁ~~~~っ!!!」 ああ、びっくりした。(たん)を吐くのかと思った。 静かにほっとしていると少年が振り返る。 うわっ。可愛い。パッチリきゅっとしたパーフェクト猫目だ。 こんな美少年そうそうお目にかかれるものじゃないぞ。 ほんと何者なんだろう。 「バカ野郎!! お前、何してんだ!!!」 ……怒られた。 あれよあれよという間に距離を詰められて、胸にメダルを押し付けられる。 「このメダルはただのメダルじゃねえ! みんなの汗と涙が詰まってんだぞ! それをよりにもよって、ゴミ箱に捨てるたぁ何事だッ!!!」 暑苦しい。それに酷く乱暴だ。 そりゃ僕も悪かったけどさ。 「おいっ! 厳巳(いずみ)!! 聞いてんのか!?」 あれ? 知り合い? 僕が忘れてるだけなのかな? 気になるけど、今は謝るのが先決だよね。 ぱっと切り替えて、深く頭を下げる。 「ごめんなさい」 「おっ……おう……」 謝ったら、途端に大人しくなった。 唇を引き結んで、もじもじし出す。 熱くなりやすいだけで、割とフツーの子なのかな? 「やっぱしんどいワケ? プレッシャーとか……その……」 「別に? 何とも思ってないけど」 「なら、何で! 何で……無表情で……記録出しても、ニコリともしねえんだよ」 ……………………いつも? いつも見てくれてるの? 気にかけてくれているの? だから、こうして止めに来てくれたの? 「なぁ……何でだよ」 じっと見つめてくる。 下瞼は歪んで、眉間には皺が寄ってて。 ――苦しそう。 ――悔しそう。 何でそんな顔をするの? 浮かんだ一つ一つの疑問が期待に変わっていく。 思えばあのジャンプ力も凄まじかった。 だけど、まだまだ無名。 まさに『眠れる獅子』だ。 もしかして、この子が? この子が僕の……? 掠れかけていた夢が、また煌めき出す。 懲りないな。 やれやれと首を左右に振って続ける。 「僕はね……待ってるんだ。僕を負かしてくれる『主人公』が現れるのを」 「はぁ? 何言ってんだ? どう考えてもお前が主人公――い゛ひゃっ!?」 僕は力任せに少年の頬っぺたを抓った。 どうやら相当痛かったみたいだ。 少年の目が >< になってる。 ちょっとやり過ぎたかな。 でも、可愛いから暫くはこのままにしておこう。 「僕は無双したいわけじゃない。追いかけたいんだ」 途端に少年の表情が曇る。 子供ながらに『そんなの無理だろ』って思ってるのかな。 自嘲気味に笑いながら、少年の頬っぺたから手を離す。 「あっ、諦めんなよ! 世界は広いんだぜ? 五年後、十年後にはきっとすげえヤツが出てくるって!」 子供(キッズ)に気を遣わせてしまった。 あ~あっ、ホント……何やってんだろ。 「ははっ……あ~、でも、安心したぜ。そいつさえ現れれば、お前は泳げるようになるんだな」 「……前?」 「ガキの頃の話だよ。その頃はお前、楽しそうに泳いでただろ」 「えっ……?」 君は………………………… ・眠れる獅子。 ・小さな頃から僕を見守り続けてきた。 ・情に厚い熱血漢。 …………………………だっていうの?  キタ。キタ! キタ!!!! この子だ! この子だ!! この子だ!!! 「なっ!? ちょっ!!? 何だよっ!!」 彼の頬を包んで、無理矢理に顔を上げさせる。 彼は暴れたけど、僕は力任せに押さえ込んで――その瞳をじっと見つめた。

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