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白の騎士と転生者

 城に突入した兵は女子供はそのままに、立ち向かう騎士たちだけを殺して回った。今日に限って、騎士たちが少ない。先日から降る雨に、王都の橋が崩壊した。その救援作業に騎士たちが赴いていることも理由の一つだ。しかし、王城の騎士らが手も足も出ないのはそれだけが理由ではない。敵の騎士たちは見たこともない飛び道具を使うのだ。その飛び道具は鉛を発射させ、肉を貫く。一度当たれば即死することもあった。城の騎士たちは剣技だけを磨いてきた。幾度も殺し合いを行ってきたが、しかしその飛び道具には対処する方法はなかった。ものの数時間で、城は壊滅状態となった。  ナルキスを倒したクニヒロ達はもと来た道へ戻った。戦果の跡が残る。至るところで人が倒れている。青いカーペットは赤黒く染まり、遠くから火が燃える音が聞こえてきた。クニヒロは初めて見る光景に嗚咽する。ゲームの好きなクニヒロはグロ系のゲームも平気でしていた。見慣れた光景。だが、実際に目の前で人が倒れているのを見ると、気持ちが悪くなった。当たり前だ。ゲームとは違う。目の前に人が倒れ、本来隠されるべき場所は表に出て、生ぬるい風は血なまぐさい臭いを運んでくる。すべて現実の出来事だ。クニヒロは震える身体を抱きしめた。 「クニヒロ……、大丈夫か」 「だ、大丈夫だ。でも、ちょっと怖いな」 「仕方のないことだ。正しいことをするためにも犠牲は必要だ」 「そんな……」  デルフィエイダの言葉にクニヒロはショックを受けた。この世界に来る前にはみんなが救われる世界がある筈だと望んでいたというのに。現実はひどく残酷だ。  城の出口に差し掛かったとき、デルフィエイダは足を止めた。クニヒロは不思議そうにデルフィエイダを見つめる。    「デルフィエイダ?」 「クニヒロ、俺にはまだやり残したことがある。お前は先に逃げてくれ」 「え……、なんで!」 「俺はお前のいた世界の話を聞き、羨ましいと思った。皆が平等で美しい世界だと。この世界もそうなればいいと心から思う。だが、このままではこの世界は何一つ変わらない。だからこそ、まずはニガレオスとアルブムを変える。2つの国境を無くすんだ。その道に進むためには、クラトラスト王を討たなければならない。クニヒロ、俺は立ち向かうよ」 「デルフィエイダ……。分かった、気をつけていってくれ」 「大丈夫だ。俺にはイヴールとグリズリーがいるし、それに何かあったときのためにこいつがある」  その手に握られたのは、敵の騎士たちが持っていた黒い塊。発砲すれば、塊から鉛が出てきて、相手を貫く。そう、それは拳銃だった。 「お前が教えてくれた知識だ。本当に作れるか分からなかったが、アデルポル殿、エルバー領の人々、そしてお前たちのおかげで形になった。ありがとう。これで、平等な世界を作ろう」  クニヒロとアデルポルの二人は城の外へ。デルフィエイダ、イヴール、グリズリーは城に残った。 「フィーダ、相談がある」 「なんだ? グリズリー」 「俺は少しやりたいことがある」 「やりたいこと……?」 「それは今しないといけないことなのか。いくらこっちにクニヒロの考えた武器があるとしても、相手はこの国の王だ。お前がいた方が心強いのだが」  イヴール、デルフィエイダは渋る。これから対峙するのは、ニガレオス最強の男にして、現国王である。やすやすと倒されてくれる相手ではないのだ。そもそも、ナルキス一人でさえ、デルフィエイダは敗れそうになったというのに、クラトラストはどれほどの化け物かしれたものではない。  だが、二人はあまりグリズリーに強く出られない。グリズリーのおかげで海を渡りニガレオスに来れたのだ。それだけではない。いくら海賊といえ、グリズリーに国を裏切らせてしまったのだ。申し訳ないと思っている。  ここに来て何をしようとしているのか分からない。だが、グリズリーをこれ以上巻き込むのも少々侮られる。デルフィエイダは意を決して、頷いた。 「グリズリー、分かった。やりたいことが何か少し気になるところだが、ここまでで大丈夫だ」 「デルフィエイダ! いいのか!」 「良いも何もグリズリーの意思だ」 「ありがとう。敵は出来るだけ引き寄せるようにする」 「いや、俺も感謝しよう。ここまでこれたのはグリズリーのおかげでもある。この国を変え、また会おう」 「ああ、約束だ」  グリズリーもいなくなり、とうとう二人になってしまった。 「二人で行動するなんて久々だな、イヴール」 「お前がクニヒロを救いにニガレオスまで行くと言い出した頃からか?」 「そうだな、あれから色々あった。俺一人で来ようと思ったのにお前を巻き込んで」 「お前が無鉄砲だからだ。目を放した隙に危うい橋を渡るんだから。それに、俺もクニヒロのことは気に入ってたんだ。」 「そうか? だが、お前がついてくるってなってからも失敗続きだったな。ニガレオスに送る荷車に隠れて乗ろうとしたが、入らなかった」 「お前がデカすぎたんだ。俺一人ならいけた」 「そんなことないだろう。グリズリーがたまたまアルブムに来ていて本当に良かったな」 「最初は海賊だからと敵対していたが、あいつも話がわかるやつだったしな」  物思いにふける。それは、これから生きて帰れるか分からない死地へと赴くためだ。 「ナルキスには負けたが、リプトルさんに出会えた。あの出会いは運命だった」 「リプトルさんが、ナルキスと敵対関係だったのも大きかったな」 「その後、リプトルさんの紹介でアデルポルにも関わりを持てた。なにより、エルバー領でこいつを作れたのが一番の功績だ」 「ああ、そうだな。アデルポルのおかげで城にも潜り込めた。クニヒロを救い出せた」 「全てうまくいってる。だから、きっと俺達は勝つ運命にある」 「ははっ、そうだな。なら、お前は先にいけ」  デルフィエイダとイヴールの前には騎士が剣を構えていた。イヴールはデルフィエイダの前に立ち、短剣を構えた。 「なっ! 俺も一緒に戦う!」 「馬鹿言うなよ。これ以上体力を削る真似すんな。いいな、クラトラストは強い。だが、俺は知っている、お前はもっと強いってことをだ。行け、お前はアルブム国最強の剣士だ!」 「くそっ! 絶対生きて会おう!」 「当たり前だろ!」  

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