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白の騎士と黒の王

デルフィエイダは走る。廊下の先に王の間がある。迫りくる騎士を薙ぎ倒し、デルフィエイダはとうとうクラトラスト王の玉座までたどり着いた。 「よう、会いたかったぜ。アルブムの騎士さんよぉ」  クラトラストは玉座に座り、頬杖をついて座っていた。余裕の笑みだ。 「我が名はデルフィエイダ! アルブム国騎士団長にして、最強の剣士! 貴様を討つ男だ!」 「おーおー、お熱いことで。ここまで来たってことはナルキスをやったんだろぉ? どのくれぇつえぇか、見てやるよ。おら、かかってこい!」  デルフィエイダは剣を握り締め、クラトラストに振り下ろす。クラトラストは椅子に掛けていた剣を抜き、デルフィエイダの剣をいとも簡単に受け止めた。 「ほぉ? 少しはやるか。だが、この俺にその程度で勝てると思ったか?」  デルフィエイダは何度も剣を振り下ろすが全く歯が立たない。ナルキスも相当強かったが、それ以上に強い。国王だからと、皆誇張して言っているのだとどこかで思っていた。とんでもない。むしろ、噂以上に強い、強すぎる。何度も何度も剣を振り下ろしているのに、一向に貫けない。隙さえ感じられない。 「その程度か? あ゙? つまんねぇんだよ!」  デルフィエイダが今度は反撃をしてくる。重い。とてつもなく、剣が重い。こんな化け物に勝てるわけがない。汗が滴り、デルフィエイダは諦めかけた。だが、遠くでクニヒロの声が聞こえた。 『デルフィエイダ! お前は頑張り屋だな。今は報われないこともあるかもだけど、いつかきっと今まで頑張ってきたことが実る日が来るよ』  クニヒロの言葉。クニヒロがデルフィエイダに言った言葉。デルフィエイダがクニヒロを好きになった日の言葉。 「私は負けられない! クニヒロのために貴様に勝つんだ!」  デルフィエイダはクラトラストの剣を受け流し、勢いそのままデルフィエイダを切ろうとした。しかし、クラトラストは笑って、素手でデルフィエイダの剣を受け止めた。 「なっ……」 「やるじゃねぇか、アルブムの騎士。ナルキスが貴様を活かしたのはこれを見込んでだったか。まぁ、本気になってもこの程度なら俺は楽しめねぇな!」  ガッとクラトラストはデルフィエイダの腹を蹴り飛ばした。跳ねるデルフィエイダ。口から血が溢れ出す。 「げほっ、がほっ」 「ナルキスは笑ってたろ? あいつは済ました顔してるが、戦いは好きなんだぜ? お前を一度逃がしたのは、お前が強くなるって踏んだからだ」 「それで……死んだら……元も子もない……だろ」 「ギャハハハハハ! そう思うか? だが、残念。あいつはそれをお望みだ。あいつはな、俺のことが大好きなんだよ。分かるか? そして俺の大好物は戦だ。争いだ。強さだ。その全てを持ち得る可能性があるお前を見逃したのは全部俺のためなんだよ」 「なぜ……貴様などにそこまで……」 「そんなの知らねぇよ。どうでもいい。だが、あいつは俺に従順でな、己の傷より俺を優先する。どういう意味か分かるか? 俺はずっとずっと待ってんだよ。お前が持つ最新武器をなぁ!」  クラトラストはデルフィエイダの首元に剣先を向ける。数センチでデルフィエイダの首は飛ぶだろう。デルフィエイダは隠していた拳銃を握る。 「なら、お望み通り使ってやる」  デルフィエイダは拳銃でクラトラストの肩を撃ち抜いた。  突然の発砲に対処できなかったデルフィエイダは肩を抑えデルフィエイダから離れる。その隙にデルフィエイダは何発も発砲させる。   「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」 「この世にはない武器はどんなもんかと思えばその程度か」 「なっ!」 「俺には効かねぇな?」  デルフィエイダの撃った弾をクラトラスト全て避けてみせた。 「そんな……」 「異世界人の知識とやらもこの程度か。こんなもんなら、さっさと殺しておいて良かったな」 「っ……!なにを勝手なことを……!」 「無駄な人間は殺す。ただ、それだけのことだ」  肩を負傷しているはずのクラトラストだが、利き腕ではない左手で平然と剣を振るってくる。先程より威力は落ちたが速度はむしろ上がっている。デルフィエイダはそれを剣で防ぎながら銃を発砲させるが、全く歯が立たない。全ての弾を今度は剣で防いでいく。 「化け物が!」 「はっ! 今更気づいたか?」  汗一つかかず、戦いを楽しむ姿。まるで人間じゃない、化け物か、悪魔か。ニガレオス一強い男? 違う。クラトラストはこの世の全てのモノより強い。そう思えるほど、クラトラストの力は強かった。 「そろそろその武器も飽きてきたな」  クラトラストは剣でデルフィエイダの銃を跳ね飛ばした。 「チッ、お前の腕ごとふっ飛ばしてやろうと思ったのによ」 「はぁはぁはぁ」 「もうしめぇだ。お前の力量も見えたしな。お前はもう強くならねぇ。生かす価値もねぇ。死ねよ」 「くそっ!」  そしてまた、血飛沫が舞った。  クラトラストはドアの向こうを見つめた。  先程、デルフィエイダが持っていた拳銃だ。どうやら、跳ね飛ばした拳銃を拾ったらしい。一目散に逃げたと思ったが、気の所為だったようだ。 「クニヒロ……」 「デルフィエイダ! 大丈夫か!」  銃声が響いた。その先で、クニヒロはガタガタと震えながら立っていた。撃ったのはクニヒロ。撃たれたのはクラトラストだ。 「なぜここに、逃げろと言っただろう!」 「ごめん! でも、お前を一人にしたくなかったんだ! 死ぬときは一緒だ!」 「なら死ねよ」  クラトラストは拳銃で撃たれた身体を引きずりクニヒロに向かい剣を振り下ろした。  死ぬ!  クニヒロは目を瞑り、痛みに備える。しかし、痛みはどれほど待っても襲ってこない。ゆっくりと目を開けると、デルフィエイダの剣がクラトラストの腹を貫いていた。 「私が、貴方を護ります」  デルフィエイダは血を流しながらも、クニヒロを護った。クラトラストが倒れていく。クニヒロはクラトラストが地に落ちる寸前まで目を離さず見つめていた。 「勝ったのか……」 「貴方を護れて良かった」 「そっか、そっか……」  クニヒロは子鹿のように足を震わせた。まだ銃で撃った感覚が手に残っている。息が荒い。 「クニヒロ様! 漸く追いつきました」 「あ、アデルポル……、ごめん……」 「あまり無茶をなされないで下さい」  アデルポルはふと目線を上げると、静かに動かないクラトラストを見つけた。   「クラトラストを討ったのですね。」 「ああ、これで世界は変わる」 「ええ。いえ、喜んでいる暇はありませぬ。火が回っております。一度、ここから逃げたほうがよいでしょう。」 「そうだな」  アデルポルはデルフィエイダを抱える。クニヒロはクラトラストを見た。 「あいつは……」 「クニヒロ……、もうそいつは死んだ」 「わかってる、分かってるよ。……早く逃げよう! 一刻も早く!」  燃える城。響く悲鳴。その日、無敵とまで称されたクラトラスト王は敗れた。そのクラトラスト王を討ったのは異世界人クニヒロ、アルブム国騎士団長デルフィエイダ、冒険者リヴール。そして、どこか苛立ったように立つ海賊グリズリーだ。国が変わる。世界が変わる。玉座の間にてクラトラスト王は血を流す。炎が迫りくる。血だらけの男が一人。クラトラストを担ぎ、その場を後にした。      

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