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第1章 捨てる神あれば拾う神あり3

「だっておまえ、要領いいだろ。人が見ていないとすぐに手を抜くし」とアル兄様はあっけらかんに答える。 「アル兄様だって、すぐに『疲れた』と息抜きをされるでしょう。それなのに人のことを悪く言うのですか?」 「なんだ、やるのか?」と兄様が虚空から現れた槍を手に取り、口元に笑みを浮かべる。  ビルは長い袖の中から出した魔術書を開き、「臨むところです」と挑発をする。  僕は、兄様とビルが今にもケンカを始めそうな状態なのに、声をあげて笑ってしまった。  ふたりは、僕が突拍子もなく笑い出したことに驚き(あき)れ、瞬きを繰り返した。  当たり前だった日常が、どれほど素晴らしいものかをあらためて痛感する。自然と目に涙が浮かび、僕は指先で(ぬぐ)った。 「兄様とビルが元気でよかったです。本当によかった」  兄様とビルは、お化けでも目にしたような表情を浮かべ、顔を見合わせる。 「ルカ、大丈夫か? さっきから様子がおかしいぞ」 「ですね。いきなり笑い出したと思ったら、泣いたりして。三日前も義姉(ねえ)様の家へ行ったばかりじゃないですか」 「そっか。変なことを言ったりして、ごめん」 「本当ですよ」とビルは腰に手を当て頬をふくらませる。 「アル兄様、双子たちと遊びたいのですが、都合のいい日はありますか?」 「うれしいことを言ってくれるな、ルカ! 義母(はは)上の体調も安定しているし、双子もおまえたちに会いたがっている。来週の休みはどうだ?」 「いいですね。ビルも一緒に行こう」 「ええっ!?」とビルは叫び、顔色を悪くする。「勘弁してくださいよ……あの子たちのおもちゃにされるのは、ごめんです!」

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