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第3章 同じ過ちを繰り返す1※
*
運命は変えられなかった。
二度目の世界でもノエル様は現れ、暴虐の限りを尽くした。
彼の暴走を止めるために暗殺計画を企て、失敗した。
エドワード様に裏切られ、大切な人たちを失った。
冷気が漂う牢屋の中で三角座りをして、なんでこんなことになったのかを考える。
扉の開く音がする。
華美な衣装を身に纏い、きらびやかな宝飾品を身につけたノエル様がやってきた。彼は牢屋番の兵に席を外すように命じ、僕に声を掛ける。
「気分はどう? ルキウス」
「ノエル様、このようなことをしていいと思っているのですか?」
「もちろん。だって、ぼくは神子だもん」
フフンと彼は得意げな様子で笑う。
「嘘です。あなたは本物の神子じゃない。『過去』の女神様が教えてくれました!」
「へえ、『フェアリーランド王国の天上には神々が住んでいる』って書いてあったけど、本当なんだ。ただの設定じゃないんだね」
「設定? なんのことです?」
「おまえは知らなくてもいい。でもさあ、人殺しはよくないよ。僕が神子じゃなくても、殺していい理由にはならないよね?」
「どの口が言うんですか! あなたのせいで何千、何万の人が命を落としました。自分の邪魔になる人間を次々と手にかけ、葬ったくせに……!」
「だから何?」
けろりとした表情でノエル様は答え、僕は開いた口が塞がらなくなる。
「何千、何万の人間が亡くなろうと関係ない。そういえばゲームの公式サイトにも書いてあったな。神子が現れる以前、フェアリーランド王国に餓死する者が出たって。第一『葬った』だなんて心外だな。あれはエドや神官たちが勝手にやったこと。ぼくは指先一本だって動かしていない」
「ゲーム? なんのゲームですか?」
「スマホのアプリゲームだよ。ぼくの友だちはITオタクでもあってね。プログラミングでゲームを作るのが趣味なんだ。先生の書いた小説を元に、おまえたちを作ったんだよ」
初めて聞く単語に戸惑っていれば、「わからないよねえ」とノエル様がニヤニヤ笑う。「ここはIT機器の普及した二十一世紀の地球とは違う。科学でなく魔法が広がった夢の世界だもん」
言葉の意味がわからなくても小馬鹿にされているのは理解できて、無性に腹が立つ。
「あなたがこの世界に来なければ、こんなことにはならなかったのに!」
するとエドワード様は、おなかを抱えて大笑いをした。
「おかしいの! 自分が何者かも知らない人間って滑稽だねえ、ルキウス。おまえみたいな悪役令息は、主人公 には絶対に勝てないんだよ」
「悪役令息?」
また聞いたことのない単語だ。
「ま、いいや。おまえが断罪される未来は決まっているんだから」
ノエル様が何を言っているのか、さっぱりわからない。困惑しているとエドワード様がやってきて、ノエル様の身体を抱きしめた。
「何をしているんだ? 大罪人と話をする必要などないだろう」
「エドワード様……」
冷たい物言いに傷ついていれば、ノエル様はエドワード様の両頬に手を当て、目を潤ませる。
「ねえ、エド。エドが好きなのは、だれ?」
「決まっている。俺が好きなのはノエル、おまえだけだ」
僕が一度も目にしたことのない甘くとろけた眼差しで、エドワード様はノエル様のことを見つめた。
「じゃあ、ぼくのお願いを聞いてくれる?」
「もちろん。おまえの願いならなんでも叶えてやるぞ」
「ありがとう。――この大罪人は、三日後には死刑になる。その前にね、ぼくらがどれだけ思い合っているか、愛し合っているかを教えてあげようよ。だから、今すぐここでぼくを抱いて?」
ノエル様の発言に耳を疑い、僕は頬を引き攣 らせた。
「何を言うんだ!? こんな場所は、おまえにふさわしくない!」とエドワード様は反論をしたが、ノエル様はエドワード様の唇に口づける。
「ぼくの願いは、なんでも叶えてくれるんでしょ? 見せつけてやろうよ! ぼくらが愛し合っている姿を……」
するとエドワード様はノエル様を掻き抱き、二人は濃厚な口づけを始めた。そしてエドワード様はノエル様の衣服を脱がしにかかった。
僕は、ふたりが獣のようにまぐわう姿を延々と見せられる地獄を味わった。
とんでもない悪夢だ。夢なら早く覚めてほしい。
エドワード様の大切なものに触れるような時間をかけた愛撫を受けているノエル様も、ノエル様の口淫に感じきった表情を浮かべているエドワード様にも怒りを覚える。
ノエル様の媚びた甘い喘ぎ声も、エドワード様からノエル様に向けた情熱的な愛の囁きも、独房に充満する青臭い性の臭いも全部、全部気持ち悪い……!
愛していた人と憎い宿敵が交わっている姿を見せられる。とてつもない屈辱を、ただ唇を嚙みしめて堪えるしかなかった。
「やあ、ん……だめ! エド、エド……! すき、大好きぃ……」
「ああ、愛しているよ……ノエル……」
ノエル様が赤い舌をちらつかせて、エドワード様に口づけを求める。
エドワード様はノエル様の求めに応じ、赤くぽってりとなり、唾液塗れになった唇を貪る。右手はノエル様のテラテラした赤い乳首を弄 り、左手はノエル様の腿 を抱えている。
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