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第3章 女神の助言

 翌日、夜間の見張りの兵が居眠りをし始めたすきを狙って両手を胸元で交差し、「『過去』の女神様、どうかこの愚か者の声が聞こえましたら、ご慈悲をください。何卒お助けくださいませ!」と祈りを捧げる。  世界が灰色一色になり、目の前にまばゆい光を纏った女神様が現れる。 「女神様!」 「私を呼びましたね、ルキウス」 「はい。機会はもう一度だけあるのですよね? やり直しがしたいです。どうかこの愚か者の願いをお聞き入れください」 「よいでしょう、許します」とふたつ返事で了承してくれた。  僕は女神様にお礼を言う。  彼女は悲しそうな顔をして「ですが結果は変わらぬやも知れません」とポツリと言った。 「それは、どういう意味ですか?」 「結局あなたは愛する人に裏切られ、大切な人たちを失う。今度は、もっとひどい目に遭うかも」 「いいんです……今度こそ失敗しません。僕の命に代えても大切な人たちの命を救いたいんです!」  切羽詰まった心境を露にすると女神様の肩にとまっていた七色に光る蝶が、僕のことを慰めるように僕の固く握りしめた拳の上にとまった。 「どうやらこの子は、あなたのことがよほど気に入っているようですね。では大盤振る舞いをしましょう。あなたに助言します」 「ありがたきお言葉……ぜひご教示ください。どうしたら、みんなを守れますか!?」 「復讐は、あの少年に仕返しをすることだけではありません」  思わず「えっ?」と訊き返した。 「あなた自身が幸福になり、新たな幸せを摑むこと。それが復讐になる場合もあります。何かを得るために、大切なものを手放さなくてはならない。すべての人を守りたい気持ちは痛いほどわかります。ですが、あなたひとりには荷が重すぎる。  もっと多くの人の手を借りなさい。上手くいかず(くじ)けそうになることも、あるでしょう。それでも諦めないで。必ずだれかが、あなたのひたむきで真剣な気持ちに気づき、救いの手を差し伸べてくれます。勇気を持って一歩を踏み出すことができれば、奇跡は起きるのです。さすれば道も開けていくでしょう」 「よくわかりません」と問えば、女神様はふっと口元に笑みを浮かべた。 「私が口出しできるのはここまで。さあ、お行きなさい。最後の機会を与えましょう」  そうして女神様は時計の針を逆回転させた。

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