15 / 112

第4章 思案2

「これがエドワード様への手紙。アル兄様にお渡ししてね」  アル兄様宛の手紙である鳩はエドワード様への手紙を口に加え、消えた。  王宮を出る前に図書館へ向かう。その道中で鳩が二羽、僕の目の前にやってきた。鳩に触れると鳩は羊皮紙の手紙へと変化する。兄様もビルも事情を察してくれたようで「任せろ」と書いてあった。  羊皮紙を服のポケットに入れ、歩を進めた。  荘厳な扉を開けば、おびただしい数の本が棚という棚に収められた静謐な空間が眼前に広がる。  僕は目の前のカウンターへ進み、司書をしている寡黙な女性に声をかけて入館証を見せる。 「こんにちは、予約していた書籍や書類を取りに来たのですが」 「はい、クライン様。こちら、ご予約されたものにお間違いはありませんか?」  僕は書籍と書類のタイトルに目を通す。 「はい、間違いないです。ありがとうございます」  そのまま荷物と受け取ったものを持ち、正門へと向かう。  正門で箱馬車に乗る。車内で揺られながら、手に取った本を眺める。  今回、僕が図書館で予約したものはすべて、英雄に関することが書かれた論文集と論文の写しだ。  この国の図書館にある英雄に関する一般書籍は、前回ですべて目を通したが、英雄を見つける手がかりにはならなかった。  王宮の貴族や騎士たちにも英雄についての情報や噂を訊いてみたものの皆、「それは神話の世界の話だろ」と首を傾げるばかり。  ビルの伝を使って、神話や英雄譚についてを研究している教授や博士に話を聞く日取りが決まったところで、牢屋送りだった。  今回が僕に残された最後のチャンスだ。  こういうときこそ元気を出して、あらゆる策を講じ、絶対に英雄を見つけると意気込まなきゃいけない。  でも英雄なんて見つからない気がしてきた。  きっと何をしても前回と同じ過ちを繰り返すだけ。  未来は決まっていて、僕みたいな、なんの力も持たない人間には何もできない。そんな気持ちで胸がいっぱいになる。  それでも、僕のせいで大好きな人たちが悲しみ、苦しむ姿は見たくない。  今、僕が一番やらなくてはいけないこと。それが何かわかっていた。  本を閉じ、箱馬車の窓の景色を眺める。恨めしいくらいに青い空を自由に飛ぶ鳥たちの姿を目にして、拳を作る。

ともだちにシェアしよう!