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第2章 大切な人たち1

   *  気がつくと、見慣れた自分の部屋のベッドの上に横たわっていた。寝起きだからか、頭がぼうっとする。身体を起こすと、だれかがドアをノックする。 「ルキウス様、朝のお食事の時間でございます。お目覚めですか?」   僕は服も着替えずに寝間着のままの状態でベッドから飛び出した。スリッパも履かずに裸足でドアへ向かう。  勢いよくドアを開ければ、父の代から執事長を務めているオレインが柔和な笑みを浮かべていた。 「おはようございます、ルキウス様。いつもでしたら起床されている時間ですのに、いかがなさいました?」  僕を罪人にするための証人としてオレイン王宮に呼び出された。  僕が反逆者であると言えば無罪放免となり、一生遊んで暮らせるほどの大金をもらえた。  それなのに彼は、僕が罪人ではないと主張し続けた。オレインはひどい拷問を受けて絶命した。  反逆者に手を貸した者として、集団墓地とは名ばかりの場所に打ち捨てられた。オレインの亡骸は死体の山に埋もれ、骨を拾うこともできなかった。  彼の顔を見た瞬間、涙が止まらなくなる。  いきなり僕が泣き出したのでオレインは、ぎょっとする。「もしや、お身体の具合が優れないのでございますか!?」と焦り始める。「失礼いたします」  心配性なオレインは断りを入れると僕の額と自分の額に手をやり、熱を測った。 「旦那様、奥様、大変です! ルキウス様がお熱を出されました!」  僕は、昔から身体が丈夫ではなかった。子どもの頃は「いつ死んでもおかしくない身体だ」と医師に言われ、実際に命を落としかけたことも何度かある。それでも十八を超えてからは、めったに具合を悪くすることはなくなった。  もしかして『過去』の女神様の力で過去の世界へ戻った反動だろうか? 重い頭で考えていれば、オレインに部屋へ戻るよう、促される。 「さあ、ベッドでお休みください。医師を呼んで参りますゆえ」  何事ごとだろうと騒ぎを聞きつけたメイドたちが、僕の部屋の前に集まる。 「執事長、どうかしましたか?」 「ルキウス様がお熱を出された! 急いで氷枕と氷水をお持ちせよ。料理長に命じて、すりおろし林檎も用意するんじゃ」  僕の様子とオレインの慌てぶりを目にすると彼女たちは朝の掃除を一旦やめて、オレインの命令を遂行する。  オレインは七十五を過ぎた老人とは思えないほどの健脚ぶりで、自ら早馬に乗り、館を出ていった。  せき込んでいると父様と母様が部屋に駆けつける。

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