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第6章 転機1
なんでこんなに城下町が気になるのだろう。
エドワード様とのデートをした思い出があるから?
いや、違うなと首を横に振る。
ここにあるものといったら遠い昔のフェアリーランド王国にいた勇者の立像くらい……。
それでも何かを見逃しているようで、どこか引っかかる。大切なものをなくしてしまったけど、どこでなくしてしまったのかわからない人のように道をさまよい歩く。
いつの間にか以前エドワード様とデートをしたパン屋さんの前で、僕の足が止まった。
小さい女の子と男の子を連れた女性が店から出てくる。
「ありがとうございました!」と店主が、女性たちに向かって挨拶をし――僕と店主の目が合う。
「あっ!」と店主は僕のことを指差し、こちらへやってきた。
「あんた、一年前におれの店にやってきた兄さんじゃないか! いやー、久しぶりだな。元気だったか?」
「は、はい。ご無沙汰しています」
「あれま今日はひとりなんかい? あのド派手な容姿をした兄さんはどうした」と訊かれ、曖昧な返事をする。
「ところで、」と切り出し、僕は現在職に困っていることを話し、このパン屋で雇ってもらえないかと相談をした。
やはりというか店主は、ほとほと困り果ててしまった。
「そりゃ大変だな。けど、うちは人手が足りているからなあ」
「そうですか」
「んー……あんたを助けてやりたいのは山々だが、おれに何かできるかあ?」
店主は顎に手をやり、頭を捻って唸り声をあげた。
すると以前エドワード様と入ったお茶屋のおばさんがやってきた。
「ちょいとあんた、どうしたんだい? 商売あがったりかい?」とニヤニヤ笑う。
「ちげえよ! この兄ちゃんの手助けをできねえかなって悩んでいるんだよ!」と彼女に僕のことを話す。
するとおばさんが隣の靴屋の主人に、靴屋の主人が八百屋のお姉さんにと言った具合で、僕のことについてを話し、徐々に人がパン屋へ集まってくる。
「あっ、ルキウス様だ!」と本屋の少年が大声をあげ、自転車を停める。
丸めた紙が大量に入ったカバンを肩に掛けた少年がパン屋の方へ走ってくる。
町の人たちは「ルキウス様って、この兄ちゃんのことかい?」と少年に訊く。
少年が「そうだよ」と返事をする。
「アンナ姉ちゃんの旦那さんの弟だよ。クライン様のおうちの次男坊様! 第三王子のエドワード様に不当な理由で解雇されて、王宮から追い出されちゃったんだ」
すると町の人たちは「アンナ様のご家族か!」とどよめく。
「アンナ様は、おれらの姫様だ。あの方の義理の弟だっていうんなら、おれらも力にならねえとな!」
「そりゃあアンナ様は、王宮で育った王女様や、貴族や騎士のお姫様なんかと比べりゃあ地位は低いし、綺麗なドレスだって持っちゃいない。だがあの姫様は、苦労を人一倍している。あたしたちの気持ちを痛いほどわかってくれるもんな、みんな!」
すると町の人たちは口々に「ああ、そうだな」と肯定的な言葉を言い、笑顔を浮かべた。
「第一今は亡きアンナ様のお父上であるロビン様は名のあるギルドだった。まさしくこの町の英雄だ。そうだろ?」
彼らの口から“英雄”という言葉が飛び出して、僕は驚愕せずにはいられなかった。
書物に書かれていた英雄は、神の父を持つ身分の高い子だ。国を繁栄させたり、魔物討伐や数々の試練を乗り越える。
だからノエル様を信奉していない神官たちに訪ねたり、貴族や騎士の中でそういう高貴な生まれの方を探した。博士や教授たちに聞きたかったのも、神を父に持つ高貴な人間を知っているかどうかということだ。
だけどロビンおじ様は普通の人間。神の血を引いていない。貧しい下級貴族だ。
それでも人々はとうの昔に亡くなった人のことを語り、英雄と讃えている。
もしかして――僕はとんでもない勘違いをしてきたんじゃないだろうか?
彼らのキラキラと輝く目を見て、一番大切なことを見逃していたのではないかと気づかされる。
「あの方がかわいがっているお義弟君が困っていたら、どうする?」
「助けるに決まっているよな!?」
「そうだ、そうだ!」と町の人たちはみんな笑顔で言った。
「けど、どうやって助ける?」とパン屋の店主が発言するとみんな、しんと静まり返ってしまった。
「だったら、こいつはどうかな?」と本屋の少年がカバンの中を漁り、丸められた紙を僕に手渡した。
僕は少年から受け取った紙を引き伸ばす。
「ギルド募集?」
「そう! 最近、悪い魔物や魔獣、悪魔なんかがまた出てきただろ。なんでも千年前に勇者様が封印した魔王の復活を目論む連中が増えているんだって!」
「そうだな、もしかしたらルキウス様も雇ってもらえるかもしれねえな」
「ギルドは無理でもさギルド募集のビラづくりや文書関係なら、雇ってもらえるんじゃないかい? あすこは王宮でなく民間が経営しているところだから、エドワード様や王様の息もかかっていない!」
僕は少年が見せてくれた紙をジッと見つめてから、町の人たちへと視線を移す。
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