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第7章 第一の試練1

   *  フロレンスから下り、木製の建物の前に立つ。  扉の方へ向かって歩いていくと怖そうな顔つきをした男性陣が、ゾロゾロと扉から出てくる。変なものでも見るような眼差しで、こちらをジロリと見る。  ついで女性陣が出てくる。王宮に出仕している姫君や女官たちのようにドレスを身に纏っていない。裸体に近い軽装や、騎士のように甲冑を纏い、露出度の高い動きやすそうな格好をしている。 「あら、見て」 「貴族のお坊ちゃまかしら? ギルドでも事務員だか、受付を募集していたものね」 「あんなウブっぽい子が入るなら、あたし、仕事に性が出るわ!」  僕は彼女の噂話に顔が熱くなるのを感じながら、簡素な扉を押し開ける。  来客を知らせるベルが鳴ると右目に眼帯をしたガタイのいいお兄さんが、ぶっきらぼうな口調で「いらっしゃい」と挨拶をした。身体中、あちこちに古傷がある。  彼も昔はギルドをして、魔物や悪魔と戦っていたのかな? と思いながら、挨拶をする。  受付のお兄さんは椅子に座り、机の上に置いてあった新聞を開き、キセルを口に加えた。 「あんちゃん、悪いね。面接なら、ギルド本部でやってる。場所を知らないんなら地図を……」 「いえ、違います。ギルドのメンバーの登録をしたくて来たんです」  片眉を上げ、お兄さんは煙を口から吹いた。 「あんたがギルドに登録を?」 「左様でございます。突然連絡もせずに来訪する無礼を、お許しください。僕は、フェアリーランド王国で文官を務めていたルキウス・クラインと申します。ギルドとして働きたいのです手続きを、どうかお願いいたします」 「帰れ」とお兄さんは、新聞を机に叩きつけた。 「なぜですか!?」と僕が食ってかかるとお兄さんは、「ここは貴族の坊っちゃんが遊ぶところじゃねえんだよ!」と声を荒げる。 「誤解しないでください。僕は遊びに来たり、冷やかしに来た訳ではありません!」 「だったら、よけいに困ります」と彼は鋭い目つきで僕のことを睨んだ。「ギルドは命懸けの仕事だ。戦場を駆けた騎士様や、戦争の恐ろしさを知っている兵士ならいざ知らず、純粋培養の貴族の坊っちゃんは、戦いの怖さを知らないだろ!」  僕は返す言葉がなくなり、黙るしかなくなった。 「第一、貴族連中はギルドに加入しても他のメンバーの足を引っ張ったり、長続きしないケースが多いからな。うちでは雇わないことになっているんだ。悪いが帰ってもらう」 「そんな、待ってください! 僕の話を聞いて……」  話の途中で転送魔法をかけられ、外へ追い出されてしまう。再度扉を押し開けようとするものの鍵を掛けられて、中へ入れない。  フロレンスは気落ちしている僕を慰めようと頭を擦りつけた。 「ありがとう。大丈夫、ギルドはここ以外にもある。ギルドに加入さえすれば、なんとかなるよ」  その日、僕はフロレンスとともに家へは帰らず、宿へ泊まった。  簡素だが、手入れの行き届いた部屋のベッドに腰掛ける。手持ちの地図をベッドサイドのテーブルの上へ広げる。黒インクをつけた羽根ペンを手にし、今日行ったギルドにバツ印をつける。  残る国内のギルドは十二ヵ所。この十二ヵ所のどこかでギルドへ加入して、英雄の手がかりを見つける。  早々上手くいくとは自分でも思っていない。それでもなぜか、今回は手応えのようなものを感じている。  こうして僕のギルド参りが始まった。    *  そうして、十一ヵ所のギルドの戸を叩き、門前払いを食らった。  おかしい。こんなはずじゃなかったのに……と焦り始める。  一ヵ月間、家に戻らず国内を旅していた。王宮で文官をしていたときの給料を蓄えていたから、宿や飲食には困らない。  ただ、こんなにも長期間家を留守にしたことがなかったから、父様と母様が僕を心配している。家へ早く帰ってくるようにと書かれた手紙が何通も送られてきている。返事を書いてはいるもののギルドに加入したいと考えていることは伝えていない。  僕がトラブルに巻き込まれているのではないかと疑った父様が「一週間日以内に家へ帰宅しないなら、強制送還の魔法を使う!」と書いた手紙を送ってきている。  僕はフロレンスに跨がり、国内最後のギルドへ向かった。    * 「駄目です」  鼻の下にちょびヒゲを生やしたおじさんは「お貴族様のご道楽に付き合っている暇は、ありませんよ」と僕の背中を押し、出入り口へと連れて行く。 「道楽じゃありません! 本当にギルドになりたいんです!」 「じゃあ、ギルドに加入したい理由を言ってごらんなさい!」とおじさんは眉を釣り上げ、大声で怒鳴った。  フェアリーランド王国の存亡のためとは言えず「人を探しているんです。名前も、顔もわかりません。ですが、おそらくギルドに加入している方で、お力添えいただきたいのです!」と力説した。

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