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第7章 第一の試練2
するとおじさんは腹を抱え、床に転がりながら笑った。
「顔も、名前もわからないお方ですかい! そんな嘘までついてギルドに入りたいなんて大した方だ!」
「嘘ではありません。どうか信じてください……」
ムクリとおじさんは起き上がり、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「そんなに言うんでしたら、この先のイワーク洞窟にいるビッグゴブリンを倒してきてください」
ゴブリンは知っているが、“ビッグゴブリン”という単語を初めて聞いた僕は、おじさんの言葉をオウム返しする。
「はい。やつはここら一帯で悪さをしているゴブリンたちの親玉です。そいつは旅人たちを襲って金目のものを盗む。馬や、牛なんかも食料として盗 っちまいやがる」
「わかりました、倒します」
おじさんは目玉を飛び出し、全身からダラダラと汗をかく。
「お貴族様が単身でですか!?」
「そうです」
外で草を食 んでいるフロレンスのことを彼に頼む。
「むちゃくちゃな! やつは熟練のギルドでも、なかなか倒せないんですぜ!」
ちょびヒゲのおじさんが急に焦り始める。どれだけビックゴブリンが恐ろしい魔物かを説明されるが、僕の意思は変わらない。
「ビックゴブリンを殺さなくても、人を襲わない状態にすれば倒したことになりますか?」と訊けば、おじさんは、しどろもどろになる。
歯切れ悪く「ま、まあ、なりますけど……」と答える。
僕はドアへ向かう。
「よかったです。それなら僕にも、勝算があります。すぐに倒してきますので、約束を絶対に守ってくださいね」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、お貴族様!」
言質は取ったのだから、一刻も早くビックゴブリンを倒そう。
外に出て指笛を吹く。
鷲が空の彼方からやってきた。僕は両腕を上げる。山小屋ほどのサイズがある“大鷲 ”の足に摑まり、身体が宙にふわりと浮く。
そして大鷲は、僕の身体を空中へと放り投げた。
おじさんは大鷲に放り投げられる僕の姿を目にして「ひええっ!」と大声をあげて腰を抜かす。
フロレンスは、おじさんに文句をつけるようにブルルと鳴いた。
僕は大鷲の背に乗り、彼 にイワーク洞窟へと向かうってもらうよう頼んだ。
*
イワーク洞窟の入口に大鷲が下りる。彼に礼を言って、大鷲の好物である木の実を渡し、やわらかな羽毛を撫でる。
クルルと大鷲は鳴き、翼を広げて空へ飛び立つ。「何かあったら呼んでくれ」と心強い言葉に勇気づけられる。
入口前で念のために一旦結界を張り、手持ちのアイテムを確認する。ギルドを回っている最中、町の出店で入手したものを数える。
怪我をしたときの回復薬、魔力の補充をするエーテル、魔物・悪魔除けつきの簡易宿泊キットと非常食のお弁当、死者蘇生要のお守り。すべて揃っているのを確認し、僕は杖を取る。
光の魔法を使い、杖を掲げる。薄暗く、冷凍室のようにひんやりと冷気が漂う洞窟の中へ足を進めた。
洞窟内は最初、ランプの灯っていない狭くて暗い炭鉱のトンネルのようだった。虫型魔獣や、モグラ型下級魔獣のモグリン、吸血コウモリがわらわら出てきて、襲いかかってきた。そのたびに魔法を使ってなんとかやり過ごし、まるでアリの巣のような道を進んでいく。
三時間ほど歩くと洞窟の壁や足元に、水晶 や、貴金属・宝石の原石が見られるようになる。
開けた場所に出て、光の魔法を解除した。
ほのかに青白く水晶が発光し、その光に照らされて原石がきらめく。夏場でもないのに蛍が飛び交い、足元にはヒカリゴケが生えて、白い花が咲き乱れている。水底の石が見えるほどに透き通った川が流れている。僕は夜空の星を眺めるように、幻想的な光景に見入った。
「すごい……洞窟の中にこんな場所があるんだ」
突然、首元にヒタリと冷たいものが触れる。水じゃない。きらりとはためくナイフだ!
エドワード様が放ったのであろう全身黒服を纏った刺客が、どこからともなく現れ、僕を取り囲んだ。
その数は十人以上。
兄様やピーターのように武術に長けていないし、ビルのように攻撃魔法も使えない僕は、手も足も出ない状態になる。このまま首をかき切られ、死ぬのだろうか。
全身に冷や汗をかいていると唯一の武器である杖を取り上げられ、後ろ手に荒縄で縛られる。
「動くな、ルキウス・クライン。我々の言うことを聞け」
「っ! エドワード様の差し金ですか?」
ぷつりとナイフが首の皮をわずかに切り、痛みとともに生暖かい血が流れる。
周りにいる男たちが下卑た笑みを浮かべ、ベラベラと喋る。
「あの方は、おまえが苦しみ悶えながら死ぬことを臨んでおられる」
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