28 / 112
第7章 第一の試練3*
男たちの言葉に背筋が凍りつく。
無理やり地面に押し倒され、頭と足を押さえつけられる。もがいて抵抗しても、屈強な男たちを跳ねのけられない。
杖も取られて、頼みの魔法も使えない。
地面に這いつくばり、横目で黒服の長 と思わしき人物を睨みつける。
長は温度の感じられない目で僕を見下ろした。
「おまえの手足の腱を切り、動けないようにしてやろう。そのまま魔物たちの餌となれ」
「なっ!?」
「安心しろ、首だけは拾ってやる。エドワード様に、おまえを殺した証を見せるためにな」
生命の危機を感じ、身震いが止まらなくなる。
「まずは足からだ」
「嫌です、やめて!」
ズボンをたくし上げられ、足首にナイフの冷たい刃が触れる。心臓がドクンドクンと大きく音を立てる。
突如「ギャアッ!」と男たちの悲鳴があがった。そして男たちが吹っ飛んでいく。
「なんだ!?」
黒服の長が、男たちの吹き飛んでいった方向を注視し、戦闘態勢をとる。
「ったく、こんなところで人殺しか? 場内荒らしは困るぜ、旦那ぁ」
大剣を肩に担いだ男性がニヒルな笑みを浮かべた。
長はナイフを手にし、他の部下たちも各々の武器や杖、魔術書を手に取り、男を警戒する。
「貴様、何者だ。名を名乗れ!」
「名乗るほどの者じゃねえ。しがないギルドの一員、さ!」
そうして男性は長に向かって大剣を振るった。
既のところで長は大剣を避ける。そして部下たちに命令を下す。
「計画、丸つぶれだ。もういい、そいつの首を切れ!」
僕を押さえつけている男のひとりが、ダガーを振り下ろした。僕は目を見開いて刃が自分に向かってくるのを凝視する。
ガキンッ! と金属音がしてダガーの刃が折れ、飛ぶ。
ダガーの刃があったところに、ブーツを履いた足があった。
次の瞬間、男の左頬に左の拳がめり込んだ。暴れ馬も驚くほどのスピードで、洞窟の壁際へ男が吹っ飛ぶ。
栗毛のポニーテールヘアをした女性が、次々に男たちを殴り、蹴っていく。
大剣を手にした男性とともに黒服の男たちを倒す。
「クソッ! 虫けらの分際で!」
自分の背丈ほどの長さをした金の杖を持った男が、攻撃魔法を仕掛けてくる。
瞬間、身体がフワリと浮いた。
攻撃魔法を仕掛けようとした男の両手に小型ナイフが刺さっている。男の持っていた金の杖が炎に包まれ、灰となる。
長い白髪に長い顎髭の老人が、木でできた杖を頭上高く掲げ、僕の周りに防御魔法を作る。そして、老人とは思えない速さで走り、男たちを杖で薙ぎ倒した。
「エリザ、こやつらはただの人間じゃ! 頭に来たからといって殺すでないぞ!」
「わかっていますわ、おじい様! 虫の息には、しますけどね!」
あっけにとられていると赤い衣を纏い、ハシバミ色の目をしたオールバックの男性に「大丈夫かね?」と訊かれる。
僕は黙ってコクリと頷いた。
縄を取ってもらったものの腕がじんじん痺れている。
「飲みたまえ」
彼に手渡された回復薬の小瓶を口にする。瞬間、腕の痺れが治まり、じんじんと痛みのあった首筋の傷が消える。
「あなたたちは……いったい?」
「マックスが言っただろう。しがないギルドさ。話は、こいつらを一掃してからにしよう!」
いつの間に取り返したのだろう? 赤い衣を纏った男性が、黒服の男たちが奪ったはずの僕の杖を、渡してくれた。
そうして彼も両手剣を手に取り、戦いへ参加した。
ギルドは信じられないくらいに強かった。彼らの動きには無駄がなく、戦い慣れしている。
だけど――黒服を纏った男たちは、まるで宮廷魔術師や歴戦の騎士のように洗練された動きをして、ギルドの人たちを圧倒するほどに強かった。
とうとうギルドの四人が、黒服の男たちに追い詰められてしまう。
「こんだけ殴っても、蹴っても倒れないって、あり得ないでしょ!? こいつら、鉄でできているの? それともゾンビ?」
「大方、防御魔法と速攻の治癒魔法を掛け合わせておるんじゃろう。王宮の魔術師たちがよく使う技じゃ」
「王宮の暗殺部隊か、万事休すだな。……メリー、緊急退避はできそうか?」
「恐らく駄目。退路を塞がれているし、転送魔法 を使おうとした時点で、魔力を封じられる」
長は首を左右に鳴らし、ふうと息をついた。
「まったく手のかかる連中だ。正義漢ぶって手をわずらわせる」
大剣を手にした男性が、眉間に皺を寄せて長を指差した。
「オレらのことを馬鹿にするのは良いが、そっちこそどいいのかよ。暗殺はフェアリーランド王国や、その周辺国で禁止されている。法律上やってはいけない行為だとわかって、こんな真似をするのか?」
ともだちにシェアしよう!