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第7章 第一の試練5*
「地震!?」
女性がよろめき、男性が彼女の肩を抱いた。
老人がふたりと自分の周りに防御壁を作る。
「おまえたち、今すぐルキウスを殺せ! 息の根を止めろ!」
異様に焦っている長の言葉を受けて、黒服の男たちのありとあらゆる攻撃が、詠唱をしている僕のところに集中する。
怖くて目をつぶろうとした僕の前にマックスさんが立つ。
彼が大剣を地面へ突き立てると魔法攻撃も物理攻撃も彼の両サイドに流れていってしまった。
遠隔攻撃がきかないことに気づいた黒服の男たちが、接近戦に持ちかける。
しかし、マックスさんは大剣を瞬時に引き抜き、軽々と大剣を振る。風圧により黒服の男たちが吹き飛ばされ、マックスさんに近づけないでいる。
僕が詠唱を終えると地面の揺れは止まり、川の水面が大きく揺れる。
ザパアッと水しぶきをあげて大蛇が姿を現した。シューシュー鳴いて黒服の男たちを威嚇する。
黒服の男たちの中でも大蛇の目を見た者は、蛇に睨まれた蛙のごとく身動きが取れなくなり、石化した。
「何よ、あれ!?」
女性はが悲鳴をあげる。
ひどく狼狽した様子の男性が、老人の方へ顔を向けた。
「師匠、あれは?」
「儂も目にするのは初めてじゃ。あれは――太古の昔に東国で水をつかさどっていた邪神・蛟 の主じゃ!」
「お願い、あ黒服の人たちをここから追い出して!」
僕が祈りを捧げると蛟の主はブンと尾を振り、器用に黒服の男たちだけを薙ぎ払っていった。そして、大きく口を開けて大量の水を放出する。水はまるで生き物のように黒服の男たちを次々に捕まえていく。そして蛟の主は巨体を川の水面に打ちつけた。すると川の水が一気に溢れ出す。川の水が自由自在に動き、男たちを勢いよく押し流す。
「覚えていろよ、ルキウス・クライン! 貴様のその首、必ず切り落としてやるからな!」と長が恐ろしい捨て台詞を残し、水に流されていった。
成功してよかった……。
安心していると蛟の主がキュウキュウ鳴き出す。長い首を伸ばし、僕に頬ずりをする。
(ルキウス、恩返しできたよ。会えてうれしい!)
「うん、僕も君と会えてうれしいよ。本当に久しぶりだね。小さい子どもの頃に一度会っただけなのに、来てくれてありがとう。助かったよ……!」
僕は彼のヒンヤリと冷たく滑らかな頭を撫でる。
(ぼく、覚えてる。ルキウスがパパとぼくを助けてくれたこと。困ったら呼んで、また力になるよ)
蛟の主はキラキラと光の粒子になり、どこかへ消えてしまった。
僕は魔力切れを起こしていた。どっと疲れて、頭がぼうっとする。足に力が入らなくなり、身体が横に傾いた。重いまぶたを閉じ、このままじゃ身体をぶつけるな、と他人ごとのように思う。
だけど身体を地面に打ちつける衝撃がこない。
草原を駆けたときのような清々しい香りがする。温かな人の腕や肌を感じ、目を開ける。倒れる直前で、マックスさんに抱きとめてもらったのだ。
「ありがとな、これでおまえに救われるのは二度目だ」
「あの……どこかでお会いしましたか?」
頭にクエスチョンマークを浮かべていると突然、彼に横抱きにされ、僕は狼狽える。
「な、何を!? 下ろしてください!」
「無理するな。魔力は譲渡したけど、さっき蛟の主を召喚するときに魔力を全部使っちまったんだろ?」
図星で、ぐうの音も出なくなる。だからといって、小さい子どものように軽々と抱き上げられるのは、男と悲しい。
内心くすぶっていれば「なんだ、抱き上げられるのは不服か?」と笑われる。
ムッとして「ご心配ありがとうございます。ですが大丈夫です。ギルドの他の方の目もあります。どうか、お離しください。自分で立てます!」と叫ぶ。
マックスさんはため息をつき、僕のことを下ろした。
が、すぐにふらついて、再度倒れてしまいそうになる。
即座にマックスさんに抱きとめられた。
手を借りないと突っぱねて、彼の手を借りている状況に顔が熱くなる。
「す、すみません」
「まあ……お姫様抱っこされているよりも、こっちの方が他のメンバーとも話しやすいよな」
気遣いをさせてしまったことを謝ろうとするが、彼は「気にすんなよ」と白い歯を見せて子どものような笑みを浮かべた。
肩を貸してもらうにも身長差あり(僕の身長は175センチメートルだが、マックスさんは190センチメートルを優に超えている)、右手をお借りして背中を支えてもらう。
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