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第8章 巫術師またの名を召喚師2

 メリーさんは、喉に魚の小骨でも刺さったような釈然としない様子でマックスさんに尋ねた。 「しかし、なぜ彼は召喚師の能力があるのだ?」 「エリザが言ったように、この人はクライン家の子息だ。王家の者は代々“神々の代理人”だ。神官たちの行う儀式を受け、神の加護のもと国家の王となる。その血をわずかにでも引いている人間だからな、たまたま神々や精霊なんかと波長が合ったんだろう。だろ?」  マックスさんに訊かれて僕は頷いた。 「祖母が、そのような能力に長け、僕もその血を受け継ぎました。ですから物心つく以前から妖精や動物、魔獣、植物、神々の眷属との交流があったのです。ただ――現王様も、王子様方も神々と対話することはありません。今の神官たちも形式を重んずるだけで神々の声が本当に聞こえているわけではありません。  時代の変化によるものです。僕も学院に上がりたての頃は妖精を呼ぶ魔法を使いましたが、先生方に怒られてしまいました。祖母にも『妖精や魔獣を呼ぶ魔法は家族のまえでしか使わないこと、あとは魔獣と戦う状況になったとき以外は使っちゃいけいない』と口を酸っぱくして教え諭されました」 「なるほどな。しかし、なぜ遥か遠くの東国にしか存在しない蛟の主など呼べたんだ? 失礼だが、蛟の主とどのようなご縁があったのか、お聞きしても?」  話を振られ、僕はおずおずしながら昔話を始める。 「十五年まえに東の国の使節が来たんです。城下町でも使節とともにやってきた見世物の一座のなかに蛇使いがいました。青白く銀色に光る美しい蛇でしたから貴族の子どもが気に入って両親に蛇を欲しいとせがんだんです。生まれたときから蛇とともに過ごしてきた蛇使いは大層いやがりましたが、その子どもの両親は多額のお金を蛇使いに渡し、無理やり蛇を奪い取りました。突然尻尾を強く摑まれた蛇は驚きのあまり子どもに噛みつき、怒り狂った両親は蛇をいたぶり、すぐに捨てました。父が王様の重臣であることをよく思っていない方でしたから、半死半生となった蛇をクライン家の館に投げ捨てたのです。  外で兄弟と遊んでいた際に発見し、国一番の医師であるスタイン先生に手当をしてもらったのです。蛇は一命をとりとめました。彼と話ができた僕は彼の名前が“蛟の主”であり、水を操れる神の化身であることを知りました。蛇使いはもともと神に仕える身分でしたが神々の信仰も時代の変化により減少し、家が廃れ、蛇使いが末裔となったものですから蛟の主も蛇の形を取って、彼を見守ることにしたそうです。蛟の主が全快したので蛇使いのもとへお帰ししました。そのときの縁あって困ったときは力になると約束をしていただきました。どこにいても必ず僕の呼びかけに応じるという内容になります」 「だからって、こいつが嫌なやつであることに変わりはないわ! このお坊ちゃんのせいであたしは王宮でクビになるわ、仕事を完遂できなかったからって干されて、踏んだり蹴ったり。おまんま食い上げよ!」  不機嫌そうにエリザさんは腕組をし、そっぽを向く。  危険な状況を抜け出し、気分も落ち着いてきたからだろうか。あらためて女の人の顔をマジマジと見る。  女の人は、たじたじしながら「何よ、顔に返り血か土でもついている?」と頬の辺りを手の甲で拭う。  髪を下ろしているし、化粧もしていない。おまけにドレスではなくヘソ出しルックのキャミソールにショートパンツだから気づかなかった。 「あなたは、エドワード様づきの女官だった方では? 僕がエドワード様に殴られているときに間に入って助けようとしてくれた……」 「べつにあんたを助けようとしたわけじゃないわよ!?」と女の人に指で差される。 「マックスのこともなかなか気づかなかったし。あんた、鈍いわね!」 「す、すみません」と謝ると彼女は鼻を鳴らし、顔にかかった横髪を手で払う。 「すみませんじゃないわよ! あたしはね、王宮内にいる悪魔の信者をリスト化し、動向を見張るミッションを頼まれていた。エドワード王子が悪魔の信者である可能性が浮上したから、女官として潜入捜査をしていたのよ。けど、あんたが王子のご機嫌を損ねたりしたもんだから、あの場にいた女官は全員解雇されたわ!」  やり直し前の世界でクライン家のメイドが露頭に迷い、娼婦となって身売りをしたり、浮浪者になったことを思い出して僕はゾッとする。  震える声で謝り、女官たちがどうなったかを訊く。  女の人は眉根を寄せ、「運よく王妃様のご配慮のおかげであたし以外は、べつの部署に配属されて働いているわ」とつっけんどんな態度をとる。 「まあ、あたしの場合は、王妃様づきの女官長や護衛隊長に出自を怪しまれちゃったから仕方ないんだけど……って、そんなことはどうでもいいのよ! あんたこそ、こんなところで何をしているの? イワーク洞窟に出てくる魔獣はザコばっかりだけど、ビックコブリンは違う。あいつは気まぐれに洞窟内をうろついて、ギルドのメンバーに襲いかかる。命を落とした人間だっているのよ」

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